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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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女神アイリアのひとりごと

 これではありませんね。これも違う。じゃああちらのファイルは・・・これでもないですね。

 リリから頼まれていた資料の捜索をしているのですが、中々進みませんね。探すついでに整理整頓もしようと思い、仕分けながらの捜索になっているのも時間がかかっている理由でしょうか。手当り次第に資料を取り出して、地域ごとに分けていく作業の繰り返しです。一つひとつのファイルがそれなりの重さなので、長時間作業していると疲れてきてしまいます。

 これだけ膨大な資料を前にすると、データ化して資料保存をしていた時代に生まれたかったと思います。ペーパレス化の流れから紙媒体による保存へと先祖返りを決断した過去の人たちは、こういう苦労があると理解していたのでしょうか。もちろん、資料を保存するスペースの問題よりも、資料破損の危険性を重要視する考え方はわかります。科学が発達した結果である以上、この先祖返りも仕方のないことなのでしょう。ただ、進歩するならば、永久に破損しない情報媒体を作る方向に進んでほしかったです。

 よし、資料捜索は終わりにしましょう。腕が重たくなってきてしまいました。マナの力を利用しているので、それほど腕に負担はかからないのですが、回数を重ねればやはり疲労は出てきますね。これ以上続けたら通常業務に支障をきたすかもしれません。少し休憩すれば問題ない程度ですが、まあ支障をきたすことにしましょう。ということで休憩にします。

 飲むのは緑茶で、お茶請けは醤油せんべいにします。インスタントコーヒーと一緒に先輩から貰ったものです。先輩の担当区域では一般的な組み合わせだそうです。つまりは守さんの住んでいた場所ですね。協力者である守さんのことを理解するのも、女神の仕事の1つです。食文化を理解するのは、そのためには基本でしょう。デキる女神である私は、基本はきちんと押さえているのです。

 せんべいを一口食べて、熱い緑茶をすする。香ばしい醤油せんべいと渋い緑茶が、実によく合いますね。それに、疲れた体にはせんべいの塩気が心地よいです。インスタントコーヒーといい、守さんの世界にはいいものがありますね。先輩のお土産はまだまだ色々ありますから、他のものも楽しみですね。

 日報の確認をしておきましょうか。まずはリリの日報からです。お、昨日とはうってかわって簡潔ですね。午前は町で守さんの作った折り紙と押し花の販売を委託して、午後は販売用の料理を試作したとあります。昨日のお風呂の感想やお小言のような長文はありませんね。ただ、折り紙と押し花についての説明がないため、肝心の商品自体がどんなものなのかがわかりませんね。自分で調べろということでしょうか。後で検索しておきましょう。

 次は守さんです。えっと、折り紙が小金貨2枚で売れそうだから、もし売れれば食料への不安がなくなって森の回復に集中できるかもしれない、とありますね。続いて紙を折っただけで値段が跳ね上がるなんてことがあるのだろうか、金額の大きさを聞いてもあまり現実感が湧かないとあります。折り紙は紙を折って作るもの、それだけはわかりました。

 小金貨2枚というのは、1世帯が1年暮らしてもまだ余るくらいの金額です。突然そんな大金が手に入ると言われても、ピンと来ないのは当然かも知れません。元々守さんは、職がなくて食費すら危ぶまれる生活を送っていたのですし、自分が作ったものがそんな大金になるなんて思わないでしょう。

 もしその金額はそのまま手に入れば、間違いなく当分の生活資金は大丈夫でしょう。あの家に住む以上家賃も光熱費もかかりませんし、ある程度食べられるものも自生しています。2~3年は働かなくてもいいのではないでしょうか。いや、森の原状回復のために働いてもらわないといけないんですけどね。でも、働かなくていいなんて羨ましいですね。この仕事に不満があるわけではないですけれど、働かなくて済むのならその方がいいに決まっています。労働せずに自由に暮らす。そんなことできたらなぁ。朝のんびり起きて、悠々自適に過ごして眠たくなったら床につく。いいなぁ・・・。

 と、妄想に浸っていても仕方ありませんね。働かなくては食べていけませんし、欲しいものも手に入りません。日報の続きを確認しましょう。

 続きには、「その店の店主はリリティアさんの知り合いだそうだが、何か悩みがありそうだった。相談されないことにリリティアさんもやきもきしているように見えた」とありますね。リリが親しくなった人間は、お店をやっているようです。そして、何か困りごとがありそうだと守さんは思っているのですね。リリの個人的な問題に感じますが、わざわざ日報に書いたというのはどういうことでしょうか。報告しておいた方がいいと思ったのか、あるいはその方について私から何か聞きたいと考えたのか。そのどちらかでしょうね。しかし、私もその方のことは知りませんので、聞かれても答えられません。そもそも、守さんに直接連絡する方法がない以上何もできませんし。電信は通信室に入ればリリも守さんも読めますが、今回の件はリリには見えないようにしなければいけません。個別に連絡が取れる方法を考えた方がいいかもしれませんね。

 守さんの報告が本当であれば、この店主がリリの友達とみて間違いないでしょう。どんな方なんでしょうか。悩みがあるようなら何とかしてあげたいですね。もちろん力になれるのは、担当神としての職権濫用に当たらない範囲内だけです。

 今のところは、守さんに任せることにしましょう。日報に書くくらいには、気にしているはずですから。

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