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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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六日目・猫目石⑨

 リリティアさんが作った料理を試食しようと、ダイニングテーブルに全ての品を並べた。

 「・・・ちょっと作りすぎてしまったかな」

 「大丈夫ですよ。ちょっと早いですが、これで夕食にしてしまいましょう」

 正確な時間はわからないが、既に日はかなり傾いている。試食する料理も、スープに始まりポテトサラダやキノコとホージュの実の蒸し焼き、干し肉をステーキ風に焼いたものにデザートがある。ちょっとしたコース料理のようだから、最早豪勢な夕食だ。

 向かい合って座り、試食を開始する。まずはスープからだ。

 「酸味が強いけどほんのり甘い・・・これは食事の最初に飲むのにいいですね」

 「そうだな。本当はもう少し甘くなると思ったんだがな。少々ホージュの実に甘みが足りなかったようだ」

 「ですが、これはこれでアリな味になってると思いますよ」

 次にポテトサラダだ。

 「うむ、これはうまくいったようだな。黄ポートの甘みとホージュの実の酸味がいい塩梅になっている」

 「いいですね、これ。俺は正直な話、ポテトサラダに果物を入れるのはNGだったんですけど、これはアリです。美味しいですよ」

 黄ポートという芋は、じゃがいもよりも甘みが強い。だから、甘みが弱く酸味が際立っているホージュの実との相性がよかった。

 「ただ、おかずという感じじゃないですね。おやつって感じの味です」

 「甘いサラダだからな。好き嫌いがはっきりと分かれてしまうかもしれないな」

 俺としては、甘いおかずはあまり好きじゃない。だからといって、サラダをおやつにする感覚もないので、食べるタイミングに困る味ではある。とはいえ味自体は美味しいので、サラダと思って食べなければいけるだろうとは思う。

 ポテトサラダの次は蒸し焼きだ。果物をキノコと一緒に蒸し焼きにするという、俺の常識にはない料理だ。

 「どんな味がするんだろうと思ってたんですが、色々なキノコの風味にホージュの実の酸味が混ざり合って不思議な味がします。気になる点は、ちょっと水っぽいところですかね」

 「糖度が少ないからだろうな。思ったよりもとろみがつかなかったから、水っぽく感じてしまうのだろう。私としては、それよりもキノコ出汁の風味がホージュの実の香りと喧嘩してしまってることが気になる」

 乾燥キノコの戻し汁を出汁として利用しているのだが、確かにあまりホージュの実の香りとマッチしていない感じがする。

 お次はメインディッシュのステーキだ。

 「お、これはうまい。柔らかいし塩と香辛料の加減が丁度いい。やっぱり肉って、いいですね」

 「切って焼いただけのステーキが一番反応がいいのは複雑だな。まあ褒められて悪い気はしないが」

 ただ切って焼いただけではこの柔らかさは出せないだろう。干し肉をすりおろしたホージュの実に漬け込んでいるのは見たが、それだけで干し肉が柔らかくなるのだろうか。他にも仕事がされているのだろう。後で聞いてみるとして、それよりも今は久しぶりのジューシーな肉を堪能しなくては。冷凍も冷蔵もないこの世界で、柔らかい肉を食べられるとは思わなかった。

 残るはデザートの3品だ。

 「ケーキは・・・作り方と材料を考えればかなり食べられるようになってますね」

 「うむ。これなら我慢して食べられるな」

 ケーキと言っても、ボソボソした安いパンを細かく砕いて、角切りのホージュの実とジャムを混ぜて焼いたものだ。見た目はパウンドケーキのようではあるが、味は決してよくはない。材料となるパンを砕いた時点で味については察していた。パンを砕く、そんなことをした日本人はそうはいないだろう。少なくとも俺は、パンを麺棒で叩いて砕くなんてことは初体験だ。

 あと、焼く前にコックリの茎から取れる液体を混ぜていた。これを入れると、モチモチ感が出るとのことだ。確かに、朝食べた時に比べれば食感が幾分マシになっている。

 「パイは失敗だな。生地とコンポートがイマイチ合わない」

 「そうですか?俺はケーキよりこちらの方がいいと思いますけど」

 コシのある不思議な食感の生地に、ナッツとコンポートが乗っている。確かに生地とコンポートの相性がよくない気はするが、失敗とまでは思わない。

 「値段は3倍以上するぞ」

 「あ、費用対効果を考えれば断然ケーキですね」

 味で言えばパイだが、値段が3倍以上もする。コスパは断然ケーキだ。

 「ゼリーは悪くないな。だが、改善の余地は大きいな。砂糖を加えて甘みを出すか、ネモ―の実を入れて酸味を追加してもいい」

 「独特な食感がいいですね。このかすかに香る果物の風味を活かすには、あまり色々入れすぎない方がいいでしょうか」

 ザクロのような果物の種を潰して、すりおろしたホージュの実と合わせてよく混ぜる。すると、まとまって弾力が出る。食感はゼリーと言うよりはところてんに近かった。この果物の名前は、聞いたが長すぎて覚えられなかった。

 こうして試食を兼ねた夕食を終えた後、後片付けを済ませた。

 「自分で作っておいてこんなことを言うのはどうかと思うのだが・・・シャールの町で販売するのには適さないものも多いな」

 「・・・そうですね」

 まず、スープは持っていくことが難しい。密閉できる容器があればいいが、それを探してまで売るのかというと微妙なところだ。

 「蒸し焼き、ステーキは冷めると美味しくないからダメだな。そもそも蒸し焼きは要改善だし、ステーキは目的から少々外れるだろう」

 森で採れたホージュの実を活用することが目的だ。町で買った干し肉が主役になるステーキは、その目的を達成できない。だが、美味しいので自分たちで食べるのはアリだ。後で作り方を聞いておこう。

 「デザートはどれも持っていくのは簡単ですが、ゼリーだけは避けたほうがいいかもしれませんね。季節的にもこれから暑くなりますし、ぬるくなってしまうでしょう」

 常温のゼリーはあまり美味しくない。冷蔵庫と保冷バッグがあれば、これからの季節のヒット商品になり得るが、この世界ではそんな便利なものは存在しない。

 「では、明日売りに出すものを決めようか。お前の判断でいいぞ」

 「そうですね。では、ポテトサラダとケーキにしましょうか」

 持ち運びに問題がなく、味も悪くない。黄ポートもパンも安価なので、価格を抑えられることも大きい。この判断には、リリティアさんも賛同してくれた。

 「しかし、食材をかなり使ってしまった。商品開発という目的を忘れて作りすぎてしまった。それに関しては申し訳ないと思っている」

 「気にしないでくださいよ、元々俺が相談したんですから。それに、美味しいものが食べられたので、結果的には全然OKです」

 「この世界の食材をきちんと料理する機会はあまりなかったので、改善するべき点は多かったが・・・お陰で久しぶりにしっかりと料理ができた。ありがとう」

 「お礼を言うのは俺の方なんですが・・・リリティアさんは料理が好きなんですね」

 「ああ。料理に限らず、何かを作ることは好きだ。作り方や組み合わせを考えて結果を想像する。想像通りにいくか実際にやってみる。想像通りでなければどこが違うのか、どう変えればうまくいくかを考える。その工程は楽しい。」

 「確かに、わからないことをやってみて、どうなるのか見てみるってのはいいですよね。ワクワクするというか」

 「おお、お前はわかってくれるか。アイリアにはこれがわかってもらえなくてな。いつも、そんなこと気になるの?って言われてしまう。もう少し色々なことに興味を持ってほしいんだが・・・」

 唐突に出てきたアイリアさんの話を聞きながら、単にアイリアさんにも一緒にやってほしいだけなのかなと思った。

 もちろん、思ってもそんなことは口には出さないけれど。

第68部分「五日目・シャールの町⑥」一部の文章を訂正しました。柔らかいパンの値段が変わっております。

それと、章設定をしてみました。ただ、章タイトルは今後変わるかもしれません。


文章の一部を修正しました。

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