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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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六日目・猫目石⑧

 ものすごく手際がいいなぁ。料理をするリリティアさんを見て、そう感じていた。今日の朝食を食べた時に、料理上手であることはわかっていた。だが、実際に作っているところを見ると、改めてその腕がわかる。

 テーブルの上に並べられた食材を見て、リリティアさんは少し思案した。そして、長い髪を後ろでまとめて、三角巾とエプロンを着けると、キッチンへと向かった。

 その姿に見惚れていたが、リリティアさんが料理を始めると俺の視線は、リリティアさんの手の動きを追っていた。

 ホージュの実の下処理を、次々と終わらせていく。皮を剥く時は途中でちぎれたりせず、1つにつながったままだ。いちょう切りもまたたく間にヘタを取って切り分けていく。1センチほどの角切りになっているものもある。いくつかのホージュの実は飾り切りをして、花や動物の姿になっている。

 呆然とその様子を眺めていると、ホージュの実が4つ入ったボウルを渡された。すり下ろせということだ。食器棚からすりおろし器を持ってくる。ホージュの実は力を入れなくとも、大した抵抗もなく簡単にすりおろされていく。これだけ簡単だと指まですりおろしてしまわないか不安になるが、神々の世界の調理器具だけあってそういう心配はないらしい。特殊な技法で野菜や果物の繊維だけをすりおろし、作業者の指は傷つけない、子供が使っても安全な構造になっているそうだ。

 俺がホージュの実をすりおろしている間にも、リリティアさんはどんどんと作業を進めていく。乾燥したキノコを水で戻しながら、干し肉を焼いて、皮を剥いていないホージュの実を2つ火にかけている。更に、野菜を次々に切っていくのだが、一つひとつ切り方やサイズが異なっている。

 ホージュの実をすり終えると、待っていたかのように野菜を3個渡された。表面の薄皮を剥くのが次の仕事らしい。玉ねぎを少し楕円形にした見た目の野菜だが、なんて名前だっただろうか。玉ねぎとは違い、剥いても目が痛くはならなかった。

 薄皮を剥いた野菜を渡すと、リリティアさんは1つをみじん切りに、2つを薄くスライスした。この野菜は見た目同様、構造も玉ねぎと同じく層になっている。

 気づいたら鍋が1つ火にかけられている。蓋をしてあるが、何が入っているのだろうか。

 「ああ、これか。黄ポートをふかしているんだ。ほのかな甘みのある芋だ。これを使って、ポテトサラダにしようと思ってな」

 ホージュの実が入るポテトサラダか。日本だと、リンゴやレーズンを入れるものもあるから、そういう感じのポテトサラダなんだろう。

 その後もリリティアさんは、迅速に料理を進めていった。俺も皮むきや調理器具の準備などの雑用を手伝った。一つの作業が終わる直前に次の作業を頼まれ、休む間が全くなかった。リリティアさんは自分の作業を複数同時進行で進めながら、俺への指示も適切なタイミングで出している。驚くべき処理能力だった。

 そんなリリティアさんの手際の良さもあり、一時間ほどの間にいくつもの料理が完成した。野菜沢山のポテトサラダ、琥珀色に透き通ったスープ、キノコの蒸し焼き、ステーキ。そしてパイやケーキ、ゼリーなどのデザートもある。これらの料理全てに、ホージュの実が使われている。

 「まあこんなものか。やはり野菜とキノコ、干し肉だけが材料では作れるものが偏ってしまうな」

 「いえ、十分すごい数ですよ。この蒸し焼きなんて見たことない料理ですし、ステーキに使う発想はなかったです。それにパイやゼリーなんて、思いついても俺には作れませんよ」

 パイ生地やゼリーの発想は確かにあったが、作り方がわからず断念した。特にゼリーはゼラチンもないのにどうやって作ったんだろうか。

 「ステーキは肉を柔らかくするのと付け合せにしか使っていないがな。それにこれはパイではないな。パイもどきとでも言うべきか。バターを使っていないし、穀物の粉で作った蒸しパンにお前が作ったコンポートを入れただけだ。形はそれらしくしただけだ」

 コンポートを入れただけと言いながら、味を整えナッツを散りばめるなどの仕事がいくつも施されている。俺が作る本当の意味での切って煮ただけ炒めただけとは違い、他の料理も一工夫二工夫してある。本当に焼いただけと言えるのは、ホージュの実をそのまま焼いただけのものくらいだろう。これは途中で少しだけ手を止めて試食した。リリティアさんいわく、焼いた時の味の変化を確認しておきたかったらしい。味は酸味がまろやかになった分食べやすかったが、水分が抜けてしまって果物を食べている気がしなかった。これはリリティアさんも同じように感じていたようで、出来がよくないなとぼやいていた。

 ホージュの木は今、栄養が十分に行き渡らない状況にも関わらず大量の実をつけてしまっている状況だ。その結果、一つひとつの実がスカスカになってしまっている。森を正常化して、ある程度ホージュの木を間引きをすれば、もっと美味しいホージュの実が食べられるのだろうか。来年の収穫に間に合うように解決できるだろうか。

 「作り終わったことだし、試食してみようか」

 「そうですね。どれも美味しそうなので楽しみです」

 転移して一週間も経っていないのに、来年の話を考えても仕方ない。まずは安定した生活を作ることからだ。

 だがそれよりも今は、目の前にある美味しそうな食べ物たちが優先だ。

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