一日目・食料を採集しよう⑤
今後、こうして定期的にここに果物を取りに来ることを考えると、一つ問題がある。
「家からここまで結構距離がありますね。迷ってしまいそうです」
比較的太い枝に足をかけながら、リリティアさんに話しかけた。
道中視界が悪く、目印となるものもない。今日はリリティアさんの道案内があったから辿り着いたが、一人で来ようと思ったら確実に道に迷ってしまうだろう。
「道に迷う、か。そういえば人間はそういう特性があったな」
「人間はって、リリティアさんは違うんですか?」
「大抵の神や精霊は行ったことのある場所ならば迷うことはない。特定の場所、例えば家やこの木に目印となる痕跡をつけて、痕跡との距離を測ることで現在地を認識できるからな」
「それは便利ですね。GPSみたいだ」
リリティアさんやアイリアさんは人間とは違うらしい。もっとも、手のひらサイズのリリティアさんが同じであるわけはないが。
しかし、道に迷わないで済むというのは羨ましい。一人暮らしを始めた頃、買い物にスーパーに行った後新居に帰れずに町内をぐるぐるさまよっていた苦い記憶がよみがえる。
「じーぴーえすとやらが何かはわからないが、人間にも同じことができるようになる地図ならある。その革袋を開けてみろ」
持ってきた革袋を開く。リリティアさんは家を出るとすぐに進んでいってしまったので、居間に置かれていた二つの革袋のうち、リュックほどの大きさの革袋だけを持って出てきたのだ。もう一つは俺の身長の半分ほどの大きさだったので持ってこれなかった。
「地図が一枚巻いてあるはずだ。アイリアがマニュアル通りに用意していれば、だが」
革袋の中を探すと手袋やのこぎり、空の革袋、バールのようなものなどが入っている。底には車輪が二つついた箱があり、その車輪の間のスペースに巻物が埋まっていた。中心の空洞部分にペンのようなものが挟まっている。
開いてみると図が描かれていた。地図のようだ。
「おお、それだ。無事入っていたようだな」
その地図の真ん中に赤い丸、その少し右側に青い三角のマークがあった。上の方と下の方に一つずつ山があり、その中腹から川が描かれている。上から流れる川はいくつかの支流に分かれているようだ。
北はどちらなんだろう。日本と似たような気候ということなので、地図の上が北、右が東だと思っておこう。
「この地図に何か仕掛けがあるんですか?」
「それはだな。ん・・・付属のペンで地図に直接書き込むことが可能。自分の手でマーキングをして自分自身の地図を作り上げよう。更に地図上に現在地を表示する機能を搭載。三角形の向きで今自分の向いている方向もわかるぞ!・・・だそうだ」
「えっと・・・なんですかそれは」
「この地図の宣伝文句だ。これを作った神が、人間への説明用に作成した文章をそのまま読み上げた」
なんかの商品の煽り文句みたいだった。試しに付属のペンで触れてみると、地図の上の方にいくつもの文字が浮かびあがった。ブラウザのメニューバーやツールバーみたいだ。
「その『マーク作成』を押してみろ」
左肩に座ると、リリティアさんは使い方を説明してくれた。「マーク作成」から「現在地に設定」を押して、確認のメッセージで「はい」を押すと青い三角に重なるように赤い丸が表示された。
「後はその赤い丸を押すと詳細を記入できる」
押してみると、赤い丸の少し上にウィンドウが表示された。
少し悩んだが、無難に「果樹林」と書き込んだ。
「ここに採集に来るのに迷うことはなくなったな。では、次に行くとしよう。お前の希望通り、泉に案内しよう」
住む家は用意されているので、食料と飲料水の確保さえできれば当面の生活に困ることはない。衣服に関しては不安が残るので、それさえ解決できれば生きていくことへの不安はなくなりそうだ。