女神アイリアのつぶやき
「よし、これで資料は十分ですね」
明後日の部門会議のための資料作成が終わりました。この仕事の不満な点の1つは、こういう会議が多いことですね。それに伴う資料や報告書の作成に時間がかかりすぎます。次の会議は部門内、つまりこの大陸を担当する者だけの会議なのでまだマシなのですが、全体会議は面倒ですね。発表用の資料もある程度しっかり作らないといけませんし。この世界を担当する神全てが出席して、担当区域の状況を説明する必要なんてあるんでしょうか。大陸間での交流は限定的です。担当区域と関係のない地域の情報を聞いても、あまり意味がないように思うのですが・・・まあ愚痴を言っていても仕方ないですね。私には、雪うさぎの発売日に被らないように祈ることしかできません。
次はリリと守さんの日報の確認をしましょうか。確か、昨日はシャールの町に向かって歩いた、とのことでした。ついでに、麻薬となる花を駆除してくれたのは助かりました。あれは設備があれば、心臓の治療に使用する薬になるのですが、この世界の技術では麻薬を精製するくらいしかできません。鑑賞するには綺麗な花なんですけどね。麻薬の精製が可能なものである以上、駆除はやむを得ません。
さて、守さんの日報の確認です。ふむふむ、やはり、今日は町で売買をしたようですね。食事も貨幣も支給されない以上、森で得たものを売って必要なものと交換してもらうしかありません。雇用契約を結んでおいて、最初に加護を与えるだけというのは心が痛みますが、これが決まりです。せめてこれくらいはと思って、住む家と、加工のための道具は頑張って用意はしましたが。
日報を確認する限り、それなりに売れたようですね。生活に必要なものも購入できているようです。あの森で生活を始めて5日目、守さんは順調に生活基盤を築いていっているのではないでしょうか。生きていくことすら覚束なくなり、挫折してしまう恐れもありましたが、当面は大丈夫そうですね。複数の候補の中から守さんを選んだ私の目は、やはり間違っていないようです。ふふん。
次はリリのです・・・が、えっと、長いですね。いつも簡潔に端的に、必要なことだけ書いてくれるのに、珍しいですね。まあこういう時は、大体お小言が多いんですけどね。読みたくないなぁ。
そう思いましたが、少し違っていました。久しぶりに手足を伸ばしてお風呂に入れた、気持ちがよかった。そういうことが書いてありますね。守さんがお風呂を作ると言ってくれて喜んだ、とも。
続きは・・・家に浴室がないことの愚痴ですね。お風呂の重要性をわかっていない欠陥住宅、と書かれています。やっぱりお小言はありました。リリは怒っていますが、仕方なかったんですよ。転送装置から近い建築に適した場所、それが家を建築する場所を決める条件でした。地下水脈の水量や地盤強度などを建築課が調査した結果、近くに水がないあの場所が建築に適した場所だという調査結果になったわけです。建築課からは、地震の際の地盤沈下と液状化の懸念がない立地である、とのことでした。地震などの自然災害の危険性については、専門家である建築課にしかわかりません。歴史上の、遠い過去の話でしたから。この仕事に就いて初めて目撃した洪水は、強く印象に残っています。
建築課の判断によって決まったあの場所は、河川や地下水脈がありませんでした。少し離れた泉から、水を汲んでくるしかありません。そのため、キッチンやトイレなどの排水設備はありますが、上水道はなく、浴室などの大量の水を必要とする設備は作られませんでした。お風呂が大好きなリリには、少々酷なことでしたね。それを守さんが解決してくれたようで、よかったです。
おお、ようやく愚痴が終わりましたか。でも、まだ続きがありますね。
「入浴後、元の姿でいた所を森野守に見つかってしまった。近くにいたのに気づかず迂闊だったが、この姿を初めてみた彼はとても驚いていた」
・・・おや?ずっと小さい姿のままだったんですね。リリはこれまで隠していたんでしょうか?ですが、驚いていたのは不思議ですね。守さんにはリリは可愛い女の子だと説明してありましたから、知っているはずですが。
「食べるものに困らないようにしてくれるそうだ。だから、今後は元の姿でいることが増えるかもしれない」
そういう理由で小さい姿でいたんですね。納得しました。食料消費が少ない体でいられるリリは、サポート役に最適でしたね。これも私の慧眼の為せる業・・・まあ他に候補者がいなかっただけですが。
ともかく、リリが守さんとちゃんとやっていけているようで安心しました。彼女は他者との距離感を測りかねている傾向がありますから、その点において不安があったんですが大丈夫そうですね。精霊と人間、違いも多く大変なことも多々あるでしょうが、今後もよい関係を作っていってほしいものです。
人間と言うと、シャールの町にはリリも森の調査の際に、何度か行っていましたね。親しくなった者がいるようですが、どんな方なんでしょうか。数少ない、リリの友達。私には何も教えてくれません。
今後、リリは守さんと一緒にシャールの町を訪れる機会が増えるでしょう。そうなれば、守さんがその方と会うこともあるでしょうか。そうなれば、守さんから話を聞くという手もありですね。リリに気付かれないように聞ける手段が、あればいいのですが。
ここまでで一段落、というよりも第一章でしょうか。話としては一区切りがつきました。時間はかかりましたが、なんとかここまで書くことができました。読んで頂いている方々がいることが、励みになっております。
次回からは第二章として話が進む予定です。今後も読んで頂けると幸いです。