五日目・月下の精霊⑩
明日の荷物をまとめる。明日は折り紙を売るために、小物の店に行く予定だ。それ以外に売れるものは、押し花とドライフラワーがある。押し花は折り紙と一緒に売りに出すつもりだが、ドライフラワーの扱いに困っている。日本では、密閉したガラスの容器に入れて飾るのだろう。しかし、ガラスも密閉できる道具もない。それにそのまま持ち運ぶと、町までにバラバラになってしまいそうだ。早く処理しないと湿気ってしまうだろうが、どうしたものかと思いあぐねてそのままにしている。
次にお金を確認する。銅貨が28枚しかない。服を3組は買い過ぎだったかな。これくらいの枚数は必要だと思うけれど、お金が貯まってから買うべきだっただろう。あの子のテンションに釣られて、勢いで買ってしまった節はある。これでは靴を買うには少々足りない。
動物の皮で作られた靴は想像以上に高価だった。町の人はほとんどが裸足に草履を履いているのだが、森の中を裸足で歩く勇気はない。今あるスニーカーが壊れる前に、新しい靴を調達しないといけない。
ジュースを飲んだ竹筒と水筒を洗う。他にやることはないが、リリティアさんが戻る前に一人で部屋に戻るのもよくないだろう。いや、そもそもリリティアさんは玄関を開けられない。このまま2階に行ってしまうと、締め出されてしまう。よし、外で待っていよう。
家の外に出る。相変わらず月明かりが眩しい。夜にも関わらず、周囲がよく見える。
月の周り以外の空には、無数の星たちが瞬いている。流星群はまだ見られるかな。
玄関ポーチの階段に座り、空を眺めた。
しばらくすると、ザッザッと足音のような音が聞こえた。右側から聞こえてくる。
何だろうか。リリティアさんは飛んでいるので足音はしないはずだ。野生動物だろうか。クマとか、猛獣でなければいいのだが。恐るおそる、音のする方に目を向ける。
思わず息を呑んだ。
女性が歩いている。黒っぽい服装から見える白い手足と、月の光を反射する真紅の長い髪が目を引いた。身長は俺より少し小さいくらいだろうか。
彼女は俺の横を通り過ぎる。柱の陰にいた俺に気がついていないようだ。俺から7、8メートルほど離れたところで、空を見上げている。その後ろ姿が、とても神秘的だった。
「精霊みたい・・・」
不意に口からこぼれた。神話に出てくる精霊、それを現実に見ているようだった。
女性が驚いたようにこちらを振り返った。
「なんだ、外にいたのか。いや、わざわざ待っていてくれたのか?すまないな」
「えっ!?」
その声を聞いて、思わず声を上げてしまった。手のひらサイズの先輩と、全く同じ声だったからだ。
「リリティアさん!?」