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森林開拓日誌  作者: tanuki
森を守るお仕事
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五日目・月下の精霊⑦

 お風呂の準備は終わったので、お湯を沸かした。スイッチを点けて温度を設定しておけば、勝手に温度調節をしてくれる。アウトドア用品らしいが、こんなに便利でいいのだろうか。

 次は夕食を作ることにした。月が輝くまでにはまだ時間があるから、食事を摂った後にすればいいと、リリティアさんが言ったためだ。

 今日は町で買ってきた食材がある。それを使って料理をすればいいのだが、どうやって食べたらいいのかがわからない。小松菜に似た野菜は生で食べられるのか、モリイノシシの肉はどうすれば美味しくなるのか。シャールの町では調味料や香辛料も買ったが、どんな味がするのか全くわからない。ユナさんにも聞いてみたが、一部の食材しか知らないようだった。火を使わない生活をしているので、加熱調理の必要がない食べ物ばかり食べていたらしい。折角なので、火を通した料理を作ってあげたい。とはいえ、暑い時期だからできるだけ涼し気な料理がいいだろう。

 そうなると、困った時のリリティアさんである。大体はわかるとのことなので、彼女の知識と知恵を借りて料理をしよう。

 「クリオーは板ずりして下茹で。ラタシアの葉はそのまま食べられる。オギニオの根は切った後水にさらさないと、辛味がきつい」

 一つひとつ聞きながら、料理の下ごしらえをした。知らない名前の野菜ばかりだ。5種類目の野菜を下ごしらえした辺りで、名前を覚えることを放棄した。とてもじゃないが覚えきれない。ユナさんが手伝うと言ってくれたので、参加してもらう。並んで料理ってなんか・・・いいね。

 俺たちが下ごしらえをする間に、リリティアさんは俺の家にあった調味料を、1つずつ味見していた。塩、コショウ、醤油、中濃ソース、マヨネーズ、ケチャップ、ポン酢、胡麻ドレッシング、シーザードレッシング。こうして並べてみると、アイリアさんは片っ端から持ってきてくれたようだ。調味料の類しか残ってなかったけど、台所と冷蔵庫を見たアイリアさんは俺のことをどう思ったんだろうか。

 「ナガツの葉はそのままでも食べられるが、少々硬いので茹でて柔らかくしたほうがいい。それと、モリイノシシの肉を茹でておいてくれ。寄生虫がいるから中まで火が通るように、しっかり加熱するように」

 小松菜に似た野菜はナガツの葉というらしい。モリイノシシの肉は適当なサイズに切って煮た。

 イノシシ肉を煮ている間に、野菜を一口大に切る。量的には大したことはないが、種類が多い。手早くやらないとイノシシ肉に火が通り過ぎてしまう。

 「煮終わったら、肉は食べやすい大きさに切って、すぐ冷水で冷やせ。本来は氷水で締めたいところだがな、仕方ないか」

 さすがに冷蔵庫すらない世界では、氷は作れない。日本に住んでいた俺でも、不便に感じることが多い。ずっと科学技術が進んでいる世界に住むリリティアさんならば尚更だろう。

 野菜を皿に盛り付け、その上に冷ました肉を乗せる。

 モリイノシシの肉を使った、冷しゃぶの完成である。醤油や胡麻ドレッシングなどをとりあえず全て並べた。ユナさんの好みがわからないため、どれでも好きなものを付けて食べてもらおう。

 付け合せにガニの煮付けと小エビを干したものを並べる。どちらも露店で売っていた保存食だ。ガニの煮付けはイナゴの佃煮のような食べ物だ。

 冷しゃぶと干しエビがあるならば、日本酒がほしい。アイリアさん、転送直前に飲んでいた日本酒も、ついでに持ってきてくれたらよかったのに。シャールの町では果実酒も売っていたが、高いので断念した。酒税があるので、全般的に酒類は高いらしい。

 主食は今日買ったパンだ。ボソボソしていて美味しくはないので、少しでも食べられるように植物油に浸して食べることにした。ショードという木の実から採れる油だ。

 さて、食べ物が全て準備できたので、夕食にしよう。ダイニングテーブルのキッチン側に俺が、その対面にユナさんが座った。リリティアさんは俺の左側にいる。

 「いただきます」

 「いただきます」

 「いただきます」

 まず、モリイノシシの肉を食べる。イノシシ独特の臭みはそれほど強くない。食感も柔らかく、ササミに近い感じだ。野菜も1つずつそのまま食べる。

 「うわ、これ辛い!」

 強い辛味に、思わず顔をしかめた。ツーンと、鼻から抜けるワサビに似た強烈な辛味に、涙が出てきた。球根をスライスしたものだな。名前は忘れちゃったけど。

 そんな俺を見たユナさんが、躊躇しながらも同じものを半分だけ食べた。

 少し顔を歪めたが、ゆっくりと嚥下した。そして、残りの半分も口に運んだ。

 「大丈夫ですか?辛くないですか?」

 思わず聞いてしまった。

 「とても辛いですね。ですが、その辛味がおいしいです」

 「そうだろう。その辛さが後を引くんだ。もう少し水にさらせば辛味は抜けるんだが、私の好みはこれくらいだな」

 リリティアさんの好みに合わせた辛さだったのか。もう一つ食べてみたが、やはり俺にはキツイ辛さだった。

 こうして食材や料理について、話しながら食べている内に、食事が終わった。リリティアさんには醤油、ユナさんにはマヨネーズが比較的好評だった。俺は冷しゃぶには胡麻ドレッシング派だ。

 デザートはシャールの町で買った果実とホージュの実だ。切ってそのまま出した。全体的に酸味の強い果実が多く、甘味の強いものはなかった。甘い果物があるもほしいな。

 「さて、もう月は光っている時間だろう。そろそろ風呂にしよう」

 最初に入るのは、お客さんであるユナさんだ。

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