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森林開拓日誌  作者: tanuki
森を守るお仕事
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五日目・月下の精霊⑥

 壁材として用意した木の板10枚だが、これをどうするのかまでは聞いていなかった。浴槽が外から見えないように、ある程度の高さの壁を作るとしか言われていないのだ。全てリリティアさん任せだ。

 「さて、今から壁を作ろうと思う。しかし、今日はもうあまり時間がない」

 リリティアさんが説明に入ったので、ユナさんと並んで立った。

 「だが壁は必要だ。入浴を覗かれてしまうと困るからな」

 「だから覗きませんってば・・・」

 「本来ならば地面にしっかり固定したいところだが、今日は木の板で簡易的な壁を作るだけにしようと思う。入浴の短い時間さえ目隠しの役割を果たせればいいからな」

 リリティアさんは、本当は本格的に浴室を作りたいのかもしれない。正直、そこまでは考えていなかったな。五右衛門風呂みたいなものを作って、ただ浸かるだけを想定していたんだけど。まあ本当に浴室を作るなら、小屋に浴槽を入れればいいだけだ。屋外に拘っているのは、月を見ることが目的だからである。明日以降は浴槽を小屋に入れてしまってもいい。

 「作り方は簡単だ。板を切って足を作り、それを地面に挿して基礎の代わりにする。単純だが、日没までに時間がないので急いでくれ」

 そう言われて俺は、燃えろノコギリを取りに家に戻った。これを使えばどれだけ厚い木の板でも撫でるように切断できる。木の板があるところに戻ると、すでに木の板は1つずつ並べて置かれていた。

 「こんな大きい板をどうやって?」

 木の板は縦が3メートルくらい、横は2メートルくらい、厚みは3センチほどだ。一人で持つのは簡単なことではない。

 「ユナが作業をしやすいようにと、並べておいてくれたぞ。タルの水を使って、あっという間だった」

 うーん、ユナさんがいれば俺要らないんじゃね?水汲みはユナさんが一人で運んでくれた。浴槽を作ったのは俺だけど、神の門を使えばユナさんでもできたことだ。俺はあまり役に立ってない気がする。自分が言いだしたことなのになぁ。

 「まあなんだ、それを今使えるのはお前だけだからな?お前にしかできないこともちゃんとあるからな?」

 心中を察したリリティアさんが、気を使って言葉をかけてくれた。色々と言葉を選んでいるようだ。そういう気遣いはかえって心を抉るからやめてほしい。

 気を取り直して木の板を切る作業に移る。基礎部分となる、足を作る作業だ。

 ユナさんが手伝ってくれる。切断する部分を水で持ち上げて、切りやすくしてくれているのだ。

 足は50センチほどの長さで、両端と真ん中の3本だ。木の板の端を5センチほど残して、50センチの深さの切り込みを入れる。反対側も同様にして、真ん中も足が残るように切り込みを入れる。切り込みから切り込みまでを燃えろノコギリで切断する。こうして、50センチの足が3本付いた、高さ250センチ、横200センチの木の板ができた。

 これを、ユナさんと協力しながら8つ作った。初めての共同作業である。その内の1つには出入り口を作った。これは人間が通れる大きさだけ、板をくり抜いた簡単なものだ。この部分だけ隙間ができる形にはなるが、高さが80センチ、横幅は人一人分ほどしかないため、大型生物に侵入されることはないだろう。念の為、切り落とした板を立て掛けて塞ぐことにする。

 余った2つの木の板は、家の壁にでも立て掛けて置いておく。

 「よし、次は穴を掘ろう。だが、その前にユナ、ちょっと手伝ってくれ」

 リリティアさんはユナさんに木の板を持つよう頼むと、空高くへ飛び上がった。そして、家の二階にある窓まで行くと、振り返った。

 「では下がってくれ」

 ユナさんは木の板を逆さに持って、少しずつ家から遠ざかるように歩いた。

 「もう少し後ろだ・・・もっと・・・よし、止まってくれ」

 リリティアさんが戻ってくる。

 「この辺りだな。ここに壁を作れば、2階から覗いても見えない角度だ」

 「だから覗きませんよ」

 家のどこからでも浴槽が見えないように、壁の位置を計算していたらしい。

 「しかし、これだと木に当たってしまうな・・・」

 リリティアさんがちらりとこちらを見た。

 確かに、リリティアさんが指定した位置だと、木々が邪魔になる。神の門で適当なものを作って、木々を排除しよう。カタログをパラパラとめくって、目についたテーブルを作ることにした。

 何度も同じ作業を繰り返せば、効率がよくなってスピーディに仕事ができる。タルの時よりもずっと手際よく魔法陣を起動させた。

 「さて、位置も決まったことだから、穴を掘ろう。穴に基礎部分を差し込んで埋める。8つの壁を設置できれば完成だ」

 壁を設置する場所に線を引き、その内側に浴槽を置いた。壁を設置してからでは入らないためだ。

 倉庫からシャベルを取り出して、穴掘りをはじめた。それを見て、ユナさんも倉庫にシャベルを取りに行った。

 戻ってきたユナさんは、シャベルを3つも持っている。そんなに持ってどうするんだろう?そう思っていると、水を使ってシャベルを操ると、3つのシャベルがそれぞれ別の場所を掘りはじめた。

 水に操られたシャベルは、ドンドンと穴を掘り進めていく。途中、1つのシャベルの動きが止まった。すると、穴の中から大きな石が出てきた。ユナさんはこれも水を操って邪魔にならない場所へ放り投げた。

 その後、何もなかったように順調に穴を深くしていく。

 こうして、俺が1つの穴を掘る間に、ユナさんは3つの穴を掘っていった。やるせない気持ちを抱えながら全ての穴を掘り終えた。

 「よし、穴もできたな。基礎部分を埋め込んだらおしまいだ。ユナ、もう少しだけ頼むぞ」

 リリティアさんはすでにユナさんにしか話していなかった。一応、俺も頑張ってるんだけどな。

 リリティアさんの誘導に従ってユナさんが木の板を動かし、基礎となる足を穴の中に入れた。俺はシャベルで穴を埋めるだけだ。基礎となる足を埋めた後、多めに土を被せて地面を踏み固める。これを8枚繰り返す。

 日没ギリギリになってしまったが、こうして壁の設置までが完了した。

 やっとお風呂に入る準備が整ったわけだ。

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