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森林開拓日誌  作者: tanuki
森を守るお仕事
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一日目・食料を採集しよう③

 「昨日こちらの世界に来た時にも思ったんですけど、この森は随分薄暗いですね」

 リリティアさんに連れられて、俺は果物がなっている場所に向かっていた。

 家から少し離れると、そこは樹木と草花で埋め尽くされていた。見下ろすと、様々な草花が地面が見えなくなるほどに生えている。見上げると、まっすぐ伸びる木々を覆い尽くすようにつる草が絡まっていて日差しを遮っている。

 目の前に無数の草木が迫ってくると、かなりの圧迫感があった。視界も遮られて見通しも悪い。

 「ああ、これがこの森に起きている異常だ。3年ほど前にわかったのだが、全ての植物が考えられないほどに増えていた。8年前に一度見に来た時は確か、木や草の量は今の半分程度だった」

 草をかき分け、林立する樹木を避けながら進む。リリティアさんはスイスイと木々の間を飛んでいた。

 「中でもこのつる草の異常繁茂が特に問題でな。3年前から定期的に確認しているが、その度に増えている。それと、これに関して気になることがあってな。付近の村の者に聞いてみたのだが、こんな草は今まで見たことがないというのだ」

 手近にあるつる草を手にとってみた。つるは小指ほどの太さだ。葉は手のひらほどの大きさで、ヤツデの葉のような形をしている。周囲の植物と見比べると、確かに異質な雰囲気がある。

 「住人が知らないとなると、外来植物でしょうか」

 「そうかもしれないな。このつる草の影響かどうかわからないが、数が減った植物もあるようでな。綿花や希少な薬草などは昔に比べて見かけることが少なくなっているそうだ」

 「本来いないはずの植物が、これだけ繁殖していれば生態系も崩れるでしょうね。これを駆除することが俺の仕事ですか?」

 森の管理人、正式名称は森の守護者だったか。その仕事がこの森を元の状態に戻すということならば、外来生物の駆除が主な仕事になるだろう。

 「それもやってもらわなければならないのだがな。それともう一つ原因不明の問題、というより現象と言ったほうがよいな。それも調査をしないといけないのだが、まあ実際に果実を見てもらった早いな。あと少しで着くからそこで説明しよう」

 そう言うと、リリティアさんはまたもや一人で先へ進んでしまった。

 つる草を手で払い、背の高い草を避けながら必死に後を追う。こちらは進むだけでも困難なのだから、少しは待ってほしかった。

 「着いたぞ。ここだ」

 家を出て20分ほど経っただろうか。杉や檜のような真っ直ぐに上に伸びる木が多かった道中から、うってかわって幹がところどころ曲がった樹木ばかりになった。そして曲がりくねった枝にはりんごほどの大きさの、丸い赤い実を実らせている。そして、その枝々にあのつる草が巻き付いていた。

 「ここには数種類の果実が実っている。季節によって実るものが違うが、一年中食べられるものが実っている。だからこれからはここで果物を収穫するといい」

 「わかりました。一年中食べるものに困らないのはありがたいですね」

 「そうだな。まあ食料に困らないからこそ人間の守護者に任せることにしたのだがな」

 食料の現地調達が前提の仕事だったようだ。

 「この時期だと目の前にあるホージュの実だな。初夏のこの時期に実をつけ始める。夏の間は主にこれを食べるといいだろう」

 「夏ですか?今は10月だったはずですが・・・ひょっとして日本とは気候が違うんですか?」

 失念していたが、ここは異世界だ。一日の長さも一年の長さも違うかもしれないし、季節だってまるで違っていてもおかしくない。

 「いや、それほど違いはない。あまり環境が異なるところから連れてくると、それだけで病気になる可能性が高まるからな。お前が選ばれたのはそういった理由もあるのだろう。四季があって、サイクルもほぼ同じだと思ってもらっていい。ちなみに、日の長さもほとんど同じだ」

 環境はほぼ同じだということは安心できる。極端に暑かったり寒かったりすると、そもそも暮らしていけるかどうかわからない。

 日本は秋だったのだが、こちらではまだ初夏なのか。折角暑い夏が終わって涼しくなってきたところだったのに、異世界でまた夏がくるのは少し憂鬱だ。

 だが仕方ない。気持ちを切り替えて、ちょうど顔の高さにあった赤い実をもいだ。

 リリティアさんに食べるよう促されたので、一口かじってみる。

 酸味が強く甘みがあまりない。果汁が少なくスカスカで、繊維が少し気になるが食べれないほどではなかった。

 「あまり美味しくはないだろう。先ほど言った原因不明の現象だが、植物の多くが弱っているようなのだ。それで果実の味も落ちているというわけだ」

 「そうですか・・・それはあのつる草に日差しを遮られているのだから、日の光が足りないだけなのではないでしょうか」

 「なるほど、そうかもしれないな。しかし、これだけ弱っているのに、果実が実り木々が増えていることが不思議なのだ。つる草や木々によって日の入らぬ場所でも草が茂り花が咲いている。弱々しいながらも生育して枯れない、森全体がこのような状態なんだ」

 そう言われて周囲の花や木の枝葉を改めて見てみると、確かに弱々しい感じがした。

 「これで今起きている状況の説明はできたな。お前が果たすべき役目は大きく分けて2つ。つる草の繁茂を止めて駆除すること。そして植物の異常生育、その原因を突き止めて改善することだ」

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