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森林開拓日誌  作者: tanuki
森を守るお仕事
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四日目・町へ向かおう⑪

 「これは駆除しておかねばならないものだ。大変な作業だが、やってくれ」

 「なんで抜くんですか?折角綺麗なのに・・・」

 「うむ、綺麗なのは認めるがな・・・この蕾を特別な方法で抽出すると、幻覚症状を起こす粉になる」

 「幻覚症状、ですか?」

 「それとその粉には強い依存性と中毒性がある」

 「つまり、麻薬ですか」

 「もっとも、使いようによっては薬にもなるんだがな。とはいえ危険な薬物になる可能性がある植物を、このまま放置しておくわけにはいかない。これまで歩いてきた疲労もあるだろうが、一仕事頼む」

 そういうことならば仕方がない。麻薬になる植物がこの森にあるというのならば、管理人として無視することはできないだろう。

 それにしても、リリティアさんが飛んできた理由はこれだったというわけだ。綺麗な花が見たかった、などという可愛らしい発想ではなかったらしい。さすがリリティアさんだ。

 ともかく家に戻って軍手や背負い籠を準備すると、早速駆除に取り掛かった。

 この花の根は深く、一本抜くのにもそれなりに力が必要だった。一本引き抜いては投げ捨て、また一本と抜いていく。リリティアさんはそれを背負い籠に入れていく。そうやって作業を分担したため、効率よく進められた。とはいえ咲いている面積は100平米近くある。太陽の傾きは、日暮れが近いことを示している。最低でも、日没までに全ての駆除を完了させたい。できれば、更に少しでも前に進みたい。町まで後どれくらいだろうか。紙鉄砲を使った辺りで確認したのを最後に、地図を開いていないためわからない。

 結局、最後まで抜き終わった時には、周囲は薄暗くなってきていた。それでも、無理をすればもう少しは進めるだろうか。

 「やっと終わったな。終わりがけに重労働をして疲れただろう。家に帰って休もう」

 「完全に暗くなるまで、まだもう少しありますよ。もうちょっと進みませんか?」

 花の駆除のせいでかなり時間を浪費してしまった。できる限り進んで遅れを取り戻しておきたい。

 「いや、そこまでする必要はない。お前は気づいていないようだが、町までもう少しのところまで来ているんだ。今日のところは早く休んで、日の出頃に町につくように出発するとしよう」

 そう言われて地図を確認する・・・が、どれくらい距離があるのかはわからなかった。だが、小川や家の位置から考えると、かなり進んだことはわかった。

 「この花に関してだが、もう少し町から離れていたらそのままにしていた。人間が採取しない限りは、薬物になる危険性はないからな。・・・私だって一応は綺麗だと思っているしな」

 「そうですか。咲いてた場所が悪かったんですね」

 「そういうことになるな。だが、裏を返せば既にシャールの町に手が届く位置まで近づいたということでもある。昼休憩以降は、私の予想以上のペースで進んでいたからな。日が暮れる前に家に戻ろうかとも考えていたところに、この花が見えてきたんだ」

 それで急遽、あの花の駆除を優先したというわけか。リリティアさんにも花が綺麗だという感性はあったようだ。

 リリティアさんの判断に従い、今日のところは家に戻ることにした。そして、すぐに夕食を作った。

 夕食は昨日と同じ寄せ鍋だ。青いキノコなどがなかったが、その代わりに新しい山菜を入れた。下処理に一日要するものだ。癖のある風味が醤油だしに合って美味しかった。

 夕食を食べた後、順番に日報を打った。一日歩いていただけなので、書くことはあまりなかった。報告するのは薬物になるという花くらいだ。その花は、リリティアさんが日報を作成している間に広げて乾燥させている。家にある機材を使えば、難しいが薬にできる可能性があるらしい。間違っても、麻薬にするためではない。麻薬の製作も使用も販売もしない。使用は倫理的にも身体的にもよくないし、販売は森の守護者という職務上アウトだ。コンプライアンス案件である。

 その後、明日の予定について話し合う。

 「そういえば、朝に食材を売ると言っていましたね」

 「ああ。野菜を扱う店に、まとめて売ってしまおうかと考えている。旅人である我々よりも、あの町の者に売ってもらったほうがいいだろう。だが、お前がやりたいというのなら、直接手売りしても構わないぞ」

 口に入るものだからな。部外者が直接売るよりも、プロの手を介したほうがいいだろう。特にキノコだ。町の人から無毒であるというお墨付きを得られたほうが、旅の商人から買うよりも安心して買ってもらえるだろう。一応、町では行商人ということで通すつもりである。

 「いえ、接客業をやってはいましたが、販売員の経験はありませんから。それはプロにお任せします」

 「そうか、その次に紙だ。折っていないものは、紙問屋に持っていけば買ってくれるはずだ」

 「折った方はどうしますか?」

 「折り紙は別の店だ。いい店が一軒あるんでな。だがあいつは朝早くには店を開けないから後回しでいい」

 「わかりました。ところで、小さい石像はどうしましょう。早目に売ってしまいたいんですが」

 「石細工は紙問屋の次だ。基本的に、シャールの町では日常的に必要なものから売り始める。食材、日用品の店が開店して、その後に雑貨屋や調度品、貴金属などの店が開くんだ」

 重さのある石製のものを先に売ってしまいたかったが、そうはいかないようだ。

 「それにしても、リリティアさん詳しいですね。町の詳細な資料があるんですか?」

 「いや、資料はないが、何度か行っているからな。森の異変がどこまで及んでいるのか、森を調査するついでにな。・・・さて、明日は早いからそろそろ休もう。食料品は朝早くから売り始めるから、早く行かないと買い取ってもらえないかもしれない。できるだけ早く着くために、夜明け前には出発するぞ」

 そういうと、リリティアさんはすぐに二階へと飛び去っていった。

 いつもよりも早く出発するにしても、寝るには早すぎる時間だった。一日中リリティアさんも疲れたのだろうか。午後からは転移装置に座っていただけだった気がするけど。

 不思議に思いながらも、とりあえず休むことにした。

 明日はいよいよ町に着く。どんな町だろうか、楽しみだ。

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