一日目・食料を採集しよう②
リリティアと名乗る二頭身人形を見上げながら、昨夜アイリアさんから言われていたことを思い出していた。
「明日、一名こちらに派遣します。以降はその者と一緒に問題の解決に当たってください」
アイリアさんがついてくれるわけじゃないのか、と少しがっかりした。
「名前はリリティア、精霊の女の子でしっかり者です。とても優秀で常に冷静、彼女なら守さんを安心して任せられます。あと、とても可愛らしい子ですよ」
正直、可愛らしいと聞いてかなり期待していた。それをアイリアさんに悟られないよう、真面目な顔を保つのが大変だった。可愛い精霊さん、一体どんな女の子なんだろう。アイリアさんがこんなに綺麗なんだから、精霊もきっとかなり・・・そう思っていた。
が、これは予想外だった。確かに可愛いけども。手のひらサイズのデフォルメ二頭身的な可愛いは想像していなかったなぁ。そうきたかー。
「はい、森野守と申します。よろしくお願いします」
気を取り直して自己紹介をし、リリティアさんを家に招き入れた。
「・・・・・・はぁ」
玄関を入って、すぐ眼の前に女神の像が置いてある。その女神像をじっと見ながら、リリティアさんは深い溜め息をついた。
不思議に思いながらも、何も聞かずにリビングに案内した。リビングには暖炉があり、その上にも小さな女神像が飾ってある。
この女神像についてもリリティアさんは、嘆息しながら何かつぶやいていた。
暖炉を囲む三脚のソファの内、ダイニングキッチンに近いものに腰掛けた。リリティアさんは暖炉の前に置いてあるテーブルに腰を下ろした。
「改めて自己紹介をしておこう。私はリリティア、女神アイリアのサポートをしている精霊だ。この森の問題の解決、及びお前が森の守護者としてやっていけるようになるまでの、指導・サポート役としてこちらまで来た」
「森野守です。本日付で森の管理人の業務に当たることになりました。よろしくお願いします。・・・ところで、森の守護者というのはどういうことでしょうか。森の管理人の仕事だと聞いていたんですが、どう違うんでしょうか」
アイリアさんも何度か言っていた「森の守護者」という言葉にひっかかりを覚えていた。何か、別の仕事をさせられるのだろうか。釣り求人、などとは思えないが。
「森の管理人というのはあくまで便宜上の呼び方だ。守護者では何をするのかわかりにくいことと、武力で敵を撃退しなければならないのではないかという誤解を与えかねないと懸念してな。お前が誤解しないような呼称を考えた結果、森の管理人と説明することになったのだ。森の維持・管理が主な役目になるから、管理人という言葉は適切だろうと思ってな。することはアイリアから説明された通りだから安心してくれ。一応、契約書には森の守護者という文言で書いておいたはずだ」
「そういうことですか、わかりました」
剣を振るって森の生物たちを守れ。そう言われたら無理だと思っていたので、戦闘がないようなので一安心だ。
「ただ、戦いがないわけではないがな」
あるのかよ。前職だって精神的にはキツかったが、身の危険を感じることはほぼなかったのに。
「森の生物たちの中には凶暴なものもいる。そういうものとの戦闘になる可能性はある。だから十分に気をつけて役目を果たしてくれ。確か身を守る装備もいくつか、アイリアが準備しておいたそうだからそれは好きに使ってくれていい」
冒険の前に装備を支給される、ゲームの主人公みたいだ。制服や道具の貸与のほうが近いのかもしれないが。
「さて、本題に移ろうか。森の守護者として、まず最初にやらなければならないことがある。それは食料の確保だ」
「食料ですか?ひょっとして、これから俺は自給自足をしなければならないんでしょうか」
「当たり前だろう。食料を常に配給していたら予算がすぐなくなってしまうからな。それと、物資の転送は申請が面倒だからあまりやらないぞ?」
食い詰めた結果、異世界まで仕事を求めてやってきた。それが、異世界まで来ても食べることに困ることになるとは思わなかった。
そもそも、就職してなお食べるものに困るなんて雇用条件悪化してないか?
「近くに果物のなっているところがある。そこで果物を取ってくること、それが最初にやることだ」
「ちょっと待ってください。食料も大事なんですが、水がなくて困ってるんです。果物よりも飲み水のあるところを教えてもらえませんか?」
食べ物も大事だが、最優先すべきは水だった。飲み水の確保、そして水浴びくらいはしないと不衛生だ。
そういえば、この家に風呂はあっただろうか。あとで確認しておこう。
「水ならば問題ない。果物のなっている場所の近くに泉があるからな。ではさっそく案内しよう。ついてこい」
そう言ってリリティアさんは玄関の扉の前まで飛んでいった。そして―――
「すまない、扉を開けてもらえないか」
19.4.29 途中の文章を二つ修正。