表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森林開拓日誌  作者: tanuki
森を守るお仕事
59/188

四日目・町へ向かおう⑧

 イノシシとの邂逅の後、再度町に向けて歩みを進めた。心臓はまだバクバクと音を立てている。大型の生物と出会ったのはこれで2回目だ。初日の子鹿と今回のイノシシ、どちらも肉食動物でなかったのは幸いである。

 「それにしても、さっきはびっくりしましたね。いきなりイノシシに出くわすなんて」

 リリティアさんに声をかけた。

 「ああ。向かってきたら追い払わなければいけなかったからな。逃げてくれてよかった」

 「追い払うって、どうやってですか?」

 手のひらサイズでは太刀打ちできないだろう。リリティアさんは小さな腕を、胸の前で組んだ。

 「妖精を襲わないのであれば、精霊も同じように襲わないかもしれない。まずはそれを試してみようと考えていた」

 「それって確か、ある程度知能の高い生物って話ですよね。それに、もしダメだったらどうするんですか」

 「・・・」

 一瞬間があった。

 「そ、そういえばそうだったな。まあその時はその時で別の方法を考えよう」

 自分で言ったことを忘れていたようだ。その上、ダメだった時はその時考えるなんて、意外と考えが雑である。

 「俺は転移装置で逃げようって思ってました。話の通じる相手ではないですし、向かってきたら逃げるしかないだろうなと。今は特に丸腰ですしね」

 まあ素人剣法でイノシシを撃退できるとも思えないので、長剣があっても同じことだったかもしれない。

 ・・・ん?俺、今なんて言った?何か重要なことを見落としているような気がするぞ。

 えーっと、確か・・・話の通じる相手・・・?イノシシには当然話が通じないだろう。ならば、人間相手には話が通じるだろうか。話にならないとか、理解しようとしないとか、そういうことではなく・・・

 「あー!」

 「どうした急に」

 思わず大声を出してしまった。少し離れたところで、赤い鳥が飛んでいった。

 「町についたところで、会話ができません。どうしましょう」

 英語なら大学までに学んできたので多少はわかる。しかし、ここは異世界だ。英語も日本語も通じないだろう。

 心配する俺を見て、リリティアさんは大きなため息をついた。呆れ返っていることは、大きな目が物語っている。

 「お前は今、私と会話しているだろう?それに、アイリアと話をして、この森の守護者になったはずだが」

 「アイリアさんは神様の御業的な何かで、意思疎通しているんだろうな、と。リリティアさんも似たような方法何じゃないですか?」

 「かなり曖昧な言い方だな・・・的な何か、似たような方法、などとはな。にも関わらず、意外と的を射ているな」

 「そんな感じで二人とは話ができても、町の人たちとは話せないんじゃないですか?」

 話ができなければ、売買の話もできない。売ることも買うこともできなければ、町に行く意味がないだろう。

 リリティアさんは俺の話を聞き、少し考えた後こう言った。

 「では、ユナと会話したことはどう説明する?」

 「え?・・・あっ」

 そう言えば、ユナさんとも話をしている。昨日は一緒に鍋まで囲んだじゃないか。

 「そう言われるとそうですね・・・」

 「ま、大方お前は舞い上がって考えが至らなかったんだろう。ユナの大きな胸から目が離せていなかったからな」

 「い、いえそんな事ありませんよ?最初に会った時は突然泉の中に現れたことに、驚いていただけですよ?」

 あのボリュームに圧倒されていたなんて、そんなことはな・・・ないんじゃないかな。

 「ま、そういうことにしておいてやろう」

 これ以上の追撃はないようだった。だが、どう考えても誤解は解かれていないようだ。しかし、不本意だが諦めるしかないだろう。こちらから追及するのは、やぶ蛇になりかねない。

 「アイリアに関しては、お前の推測はいい線行っている。神の力で、言語の壁を飛び越えて会話ができる。精霊である私も同じ能力がある。そして、今はお前にもその力が与えられている」

 「その力が与えられているというと・・・」

 「そう、加護の効果の一つだ。厳密に言うと、あらゆる言語を自動翻訳して自身と伝えたい相手に伝える能力だ。これによって自分も相手も、自身の言語で会話しているように感じる」

 自然に会話していたので、言葉の問題を一切気にしていなかった。加護の力のおかげで、日本語で話しているように感じていたということか。

 「では、町でも問題なく意思疎通ができるということですね」

 「そういうことだ。シャールの町の言語で会話しているように、町の人間には聞こえるだろう。つまりはオストーン語の西方方言だ。もっとも、お前にはお前が話している言葉に聞こえてしまうがな」

 「そうですよね。ちょっともったいない気がします」

 折角の異世界交流だが、異世界の言葉を聞き取ることができないなんて、ちょっと残念だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ