四日目・町へ向かおう②
いつも通りの朝食を済まして15分程の休憩を挟んだ後、俺達はまずユナさんのいる泉に向けて出発した。この泉と目指す町は、同じ方角にある。
朝の森はひんやりとしている。この時間ならば長時間歩いたところで汗をかくこともなく、快適に歩を進めることができるだろう・・・背中に何も背負っていなければ、だが。
今、俺は自分の身長よりも少し大きな荷物を背負っている。これがリリティアさんが準備したという、神様たちの道具である。大きさは縦2メートル、横幅は80センチ程だろうか。鏡のような平らなもので、持ち運べないほどの重さではない。持ち運ぶことを前提としているのか、紐を通すための穴もついている。だが、これを担いで森の中を歩き続けるのは、とても大変そうだ。ちなみに、同じものがもう一つあり、そちらは倉庫の近くに置いてきてある。
ガツンガツンと背中の道具が木々にぶつかる。水を汲むタルよりも少し横幅が大きいため、身を捩ったりして木々を避ける回数はどうしても多くなってしまう。少々持ち運びに不便とは聞いていたが、これは少々ではないのではないだろうか。
ちなみに、俺が今持っているのは背中の道具だけだ。それだけで十分だとリリティアさんが言ったため、水を汲むタルも倉庫の前に置いてきてある。一体どういうことなのだろうかと疑問には思うが、自信満々に言うリリティアさんの言葉を黙って信じることにした。当の本人は最初、鏡のような道具の上に座っていた。しかし、何度か木々にぶつかった後に座ることを諦めて、今は俺の少し前を飛んでいる。
大きな荷物を担いで木々の間をすり抜けるように歩く。時間は30分も経たないくらいだろうか、ようやく泉に到着した。時間はそれほどかかってはいないものの、いつもよりも大変だった。
「さて、着いたな」
「はい、着きましたね。思ったよりも疲れましたが」
「そうだろうな。だが森の守護者の仕事を続けていけばその内慣れる。運動不足の体には辛いだろうが、しばらく頑張ってくれ」
なんか今日はリリティアさんの言葉に、若干の棘があるような気がするのは気のせいだろうか。ニート期間中ほぼ運動をしていないので、運動不足ではあるのだが。
そんなことを思っていると、リリティアさんは泉の上へ飛んでいってしまった。そして、周囲を見回すと、泉のほぼ反対側へと飛んでいった。
「よし、それを持ってこっちへ来てくれ」
泉の反対側からリリティアさんに呼ばれた。よく見ると、どうやら手招きしているようだ。あの小さな手で手招きされても、ほとんど見えないのだが。
水際を歩いてリリティアさんの所へと向かう。ギリギリまで木々が生えている所は、泉に背を向けて横歩きをして進んだ。
小屋の近くまで到着した。小屋の中を覗いてみたが、ユナさんはいなかった。使って下さいとは言ったものの、椅子一つない小屋では使ってくれないのも仕方がないか。
「よし、では小屋の壁に立て掛けてくれ。向きは鏡のような面を表になるようにだ」
「ところで、これはどういった道具なんですか?」
立て掛けながら聞いた。
「まあそれは実際に使ってもらったほうが早い。そのまま立っていろ。手は一応顔の前に上げておけ」
言われるままに手を上げる。アメリカで警察に銃を突きつけられながら取り調べをされている犯人、それを思い出すようなポーズだ。
「ではいくぞ。転んで怪我しないように注意しろよ」
転ぶ?怪我?一体どういうことだろうか。疑問を感じたその時だった。
ドン、と背中に衝撃を感じた。
バランスを崩し、鏡のような道具に叩きつけられそうになった。
とっさに目をつむり、両手で体をかばう。
しかし、道具にぶつかるはずの両手は空を切り、俺は前のめりになって倒れ込んだ。
「いてててて・・・」
転んで四つん這いになったまま、手に付いた土を払った。両手を上げてなかったら、顔から落ちていた所だ。柔らかい土の地面だから良かったが、アスファルトだったらかなり痛かっただろう。
それにしても、どういうことだろうか。鏡のような道具の前にいたはずだ。道具にも小屋にも触れずに転ぶなんてあり得るのだろうか。
そう考えながら目の前を見ると、タルが置いてあった。そのタルには、背負うためのベルトがついている。水を汲むのに使っているタルである。これは出発前に、家にある倉庫の前に置いてきたものだ。
「つまり、ここは・・・家?」