三日目・寄せ鍋⑫
「うーん、やっぱり女性に重いものを持たせるのは、ちょっと気が引けるんですが・・・」
俺はユナさんと共に、家へ帰る道を歩いていた。泉に向かう際に担いでいたタルは、今は背中にはない。ユナさんが持っているからだ。
「守くんは優しいですね。でも、重いわけではありませんので、気にしないで下さい。それに夕食をいただくのに、これくらいのお手伝いはしないと申し訳ありませんから」
泉を出る時、ユナさんは水で満たされたタルに両手を入れた。何をするのだろうと見ていると、タルの中の水がユナさんに引き寄せられた。タルの水はあっという間にユナさんに吸収され、一部は体に纏わりついた。纏った水を使って空になったタルを持ち上げると、ユナさんは「それでは行きましょう」と言って微笑んだ。
水の妖精の水を操る力を目の当たりにして、この時はとても驚いた。彼女の能力があれば俺が汗水たらして担いだ水も、造作もなく運べてしまう。これは正直複雑な気持ちになった。
とはいえ、家に向かってしばらく歩いていると、重いものを持ってもらうことに罪悪感を感じ始めた。細い腕、俺より一回り小さな肩幅、そして大きな胸の膨らみ・・・これは関係ないか。自分が苦労して担いでいたものを、この美しい水の妖精に押し付けているのである。このことが、とても悪いことのように感じた。
「せめてタルくらいは持ちますよ」
「いえ、このくらいはさせて下さい。それにこのように、全然重いとは感じませんから」
そう言うと彼女は、タルをお手玉のように扱ってみせた。ユナさんの纏う水によって、タルは回転しながら彼女の周囲を跳ね回った。
その様子に何も言えなくなった俺は、家の近くに来るまで特に話すことも思いつかずに歩き続けた。女性をエスコートするには落第点だろうけれど、ユナさんも黙ってついてきてくれた。
こうして家の近くまで来た時、小屋を見つけたユナさんが言った。
「これは泉の近くにあった小屋と同じものですね」
「ええ。倉庫代わりに使ってます。あ、泉にある小屋は、ユナさんも好きに使ってもらっていいですよ。木材が転がっていて邪魔でしょうけど。鍵は中からなら閉められますので」
「お気遣い申し訳ありません。ありがたく使わせていただきますね」
とはいえ、椅子や机すらないんだよな。今度、家具一式を作りに行こう。木材があの小屋にあっても、不便なだけだから、あるだけ使ってしまってもいいだろう。
「ところで、この小屋は守くんが作ったんですか?」
これは少し答えにくい質問だな。どこまで言っていいのだろう。
「えっと、なんと言ったらいいのかわからないんですけど、俺が作ったとも言えますが、神の御業とでも言ったほうがいいような・・・」
「はい?・・・ああ、なるほど。守護者として、神様から賜った力というわけですね」
「ええ、まあそんなところです」
厳密に言うと違うのだけれど、それを言ってしまうとややこしいので黙っておく。もらった(貸与された?)道具だから、あながち間違ってはいないだろう。
「あ、小屋でやらないといけないことがあったんでした。少し待っていてもらってもいいですか?」
「わたくしに構わず、お仕事の方をなさって下さい」
お言葉に甘えて、一仕事させてもらおう。今見ている小屋とは別の、家のすぐ北にある小屋に向かった。