三日目・寄せ鍋⑪
ユナさんを夕食に招待するため、俺は泉に向かった。寄せ鍋に使うには水が足りなかったため、ついでにタルを担いできた。
到着して水を汲んでいると、泉の中からユナさんが現れた。
「こんにちは、ユナさん。普段は泉の中にいるんですね」
「ええ。守護者様は水汲みにいらしたんですね」
「・・・・・・」
「あの守護者様?どうかされました?」
「・・・・・・」
「あ、えっと・・・守くん?」
「はい、ユナさんに会って話をするついでに、水を汲みに来ました」
ユナさんは少し照れたように、俺の名前を呼んだ。一応、名前で呼ぶという約束は覚えてくれていたようだ。まだまだ遠慮がちだが、これは慣れてもらうしかないだろう。
「話ですか?わたくしに何か御用でしょうか?」
「今日の夕食は、うちで食べませんか?山菜とキノコを採ってきたので、寄せ鍋にしようと思ってるんですよ。もしよければ、一緒にどうかなと思いまして」
そう切り出すと、ユナさんは驚いたようだった。
「い・・・いえ、食事をいただくなんて申し訳ないですから・・・」
「いえいえ、たくさん採ってきたので大丈夫ですよ。何しろ売るほどありますから」
まあ売るために採ってきたんだけど。だが、それを言ってしまうと、ユナさんは気にしてしまうだろうから言わない。
「それでも、せっかく守護・・・守くんが採ってきたのですから、わたくしがそれをいただくのは・・・」
もっと気軽に来てくれると思ったのだが、なんでこんなに渋るんだろう。・・・ああ、そういうことか。
「あ、大丈夫ですよ。うちにはリリティアさんもいますから。二人きりとかではないですから」
男に突然家に招かれたら、警戒して当たり前だ。他の女性もいることを強調すれば、少しは不信感も払拭できるのではないだろうか。
「いえ、そのようなことを考えているわけではなくて・・・」
「なら、いいですよね」
断る理由を考える隙は与えない。少々強引な気もするが、悪いことをするわけではないからいいだろう。
「あの、いい悪いという話ではなくて・・・あの、本当にいいんですか?この森は、他所と比べて比較的食べられるものは多いですが・・・わたくしなんかに食糧を分け与えなくても・・・」
「なんかじゃないですよ。ユナさんだから、招待したんです。癒やしの水のお返しもしていませんしね」
「あれは泉を元通りにしていただいたお礼ですから、そんなことは必要ありませんよ?」
「いえいえ、あの程度の労力に見合わないお礼だって、リリティアさんから聞きました。とても貴重なものだって」
「あの程度って・・・わたくしにはどうにもならなかったことなんですが・・・それに癒やしの水こそ、あれくらいの量は大したことではありませんから」
癒やしの水に関しては、コップ一杯でも大変な騒ぎになると言われていた。だから、町で売ることを禁じられた。それほどのものをタルにいっぱい作り出すことが、ユナさんにとっては大したことではないらしい。
「それと、夕食の時に色々話を聞かせてください。森に住む先輩から、この森に住むためのアドバイスを貰えたら嬉しいです」
「えっと、それは構いませんが・・・」
夕食を一緒に食べる体で話を進めた。実際に行くという返事をもらっていないのだが、勢いでこのまま押し通してしまおう。
「ありがとうございます。鍋はみんなで食べたほうが美味しいですから、ユナさんもご一緒してくれて嬉しいです。何しろリリティアさんはあの大きさなので、同じ鍋を囲むわけにも行きませんから」
「え?・・・ああ、まあそうですね」
リリティアさんには個別に、細かく切ったものを小皿によそう必要がある。それでは鍋を一緒に食べるとは言い難いだろう。
「それじゃあ準備がよろしければ、家まで案内しますからついてきてください。道が悪いんで、足元と木々に注意してくださいね」
そう言いながら、地図を取り出して家の方角を確認した。家に案内すると言いながらこれでは、少しカッコがつかない。とはいえリリティアさんでもあるまいし、目印のないこの森を歩くにはこの方法しかないのだから仕方ない。
「準備は大丈夫です。では恐縮ですが、夕食を御馳走になります」
「では行きましょうか」
こうしてユナさんを連れて、家へ向けて歩き出した。