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森林開拓日誌  作者: tanuki
森を守るお仕事
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三日目・寄せ鍋⑨

 「自然の中でのんびり寝転がるのも、中々いいものだな」

 昼食を食べ終えて、そのまま休憩している。昼休みの時間をきちんと取っているのだ。10分で賄いをかき込んですぐにホールに戻っていた、以前の職場とは大違いだ。昼休憩をきちんと取れるって素晴らしい。

 仕事を辞めてニートになってからは何もせずに過ごしていたが、何も考えずにボーっとできるような精神的な余裕はなかった。眠る時は深酒をして寝落ちしていた。そして目が覚めてから自己嫌悪と焦燥感に駆られる。その繰り返しだった。だから今みたいに、横になり陽の光とそよ風だけを感じる、そんな心地よさを味わうゆとりはなかった。

 深呼吸をして、寝返りを打った。シュエード・シアの葉が鼻に触れる。もう少し広めに抜いたほうがよかったかな。でも、草の香りを感じるのも、悪くない。

 こうやって日差しを浴びながら寝転んでいると、なんだかピクニックにでも来たみたいだ。バスケットにサンドイッチを詰めて、森の中を散策して、太陽の下でご飯を食べる。傍らに置いた背負い籠と、その中の大量の山菜さえなければ、かなりピクニック感が出るんだけどなぁ。

 首を傾けてリリティアさんの方を見た。こちらからは真紅の髪の毛しか見えないが、彼女も革袋の上で寝ているようだ。

 しかしピクニックに行くのなら、可愛い女の子や綺麗な女性と一緒がいい。隣りにいるのは手のひらサイズで二頭身人形風の精霊だ。「可愛い」のベクトルが自分が望んでいるものとは少し、いや、かなり違う。折角なら、アイリアさんやユナさんと一緒がよかった。

 しばらく寝ていると、ガサガサと革袋がこすれるような音がした。音の方に目を向けると、リリティアさんが起き上がって伸びをしている。それを見て、俺も体を起こした。

 「そろそろ再開しますか?」

 キノコを革袋にしまいながら尋ねた。

 「もう休憩はいいのか?」

 「はい、十分に休ませてもらいましたから大丈夫です。リリティアさんは大丈夫ですか?」

 聞きながらシュエード・シアの採取を再開した。リリティアさんがもう少し休みたいのなら、周囲にあるこの山菜を採取し終えるまで休んでいてもらえばいい。引き抜いたシュエード・シアの葉を、地面に置いたままの背負い籠に入れた。

 「ああ、大丈夫だ。私は指示を出しているだけで、全ての作業をやらせてしまっているからな。それなのに食事だけは食べていて、申し訳ないくらいだ」

 「その指示がないと山菜が採れませんから、指示だけで全然いいですよ。あと、食事と言っても大した量ではないじゃないですか」

 「そう言ってくれると助かるが・・・」

 サンドイッチもホージュの実も、リリティアさんが口にするのは一欠片ほどだ。そもそも食べているのはアイリアさんが用意してくれたものと、森で採れたものだけだ。遠慮する理由は何もないと思うんだけど。

 「それと、その体で山菜の採取は難しいでしょう。力仕事は俺がやるんで、リリティアさんは俺がわからないことやできないことをお願いします」

 「確かにこの姿は力仕事には向いていないが・・・まあ、そこまで言ってくれるのなら、その言葉に甘えるとしよう」

 一応、わかってくれたようだ。この森に来たばかりで何もわからないが、肉体労働ならできる俺。体が小さいので力仕事はできないが、知識と経験のあるリリティアさん。二人いるんだから、お互いができることをすればいい。二人ともができないようなことがあれば・・・それはその時に考えよう。

 周辺に生えているシュエード・シアを全て採取し終えると、背負い籠の中は半分以上埋まっていた。試しに、背負籠を両手で掴んで持ってみる。これだけあると、両手に感じる重みも結構なものだ。

 「この辺りは全部採ったので、また山菜を探しましょうか。さて、どちらへ行きましょう」

 しまい忘れていたバスケットと道具箱を、革袋の中に入れながら聞いた。すると、意外な答えが返ってきた。

 「いや、後は山菜とキノコを探しながら家に戻ろうかと思う」

 「まだ昼ですけど、もう帰りますか?」

 時間にはまだまだ余裕があるはずだ。太陽は、まだまだ高いところから俺たちを照らしている。

 「お前が頑張ってくれたおかげで、量としては結構あるからな。それと、帰って下処理をする時間を考えると、そろそろ家に戻ることを考えたほうがいい。これだけの山菜を茹でて水に晒したり、干したりするのは結構時間がかかってしまうだろう。それに、夕食が遅くなっては明日が困るからな」

 最後の言葉の意味を、少し考えて納得した。

 「そうか、そう言われるとそうですね。今日はこれまでにしましょうか」

 明日は町へ向かって、1日中森の中を歩き続けなければならない。早めに切り上げて、明日のために休めということだろう。

 背負い籠を背負って、出発する準備を整えた。それを確認したリリティアさんは、先導するように飛んでいった。まっすぐ家に向かって飛んでいることは、地図で確認するまでもないことだった。

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