三日目・寄せ鍋⑦
怪しげな青いキノコは、紙で包んで革袋に入れておくことにした。これは他のキノコや山菜に、このキノコが直接触れてしまわないようにするためである。カエンタケのように、触れただけで炎症を起こすものかもしれない。キノコは一つひとつ紙で包んで、革袋に入れることにした。そのためにメモ用紙として使える紙が1枚しか確保できなくなったが、やむを得ない。後で毒キノコを判別するために、成分が混ざることを避ける目的もあった。
さて、引き続き山菜とキノコを探すことにしよう。
ここからはリリティアさんの後は追わず、少し右後方を歩くことにした。今まで10種以上の山菜を見てきたので、メモを参考にしながら自力で探すためだ。
しばらく歩いていると、山菜らしき植物を見つけた。細いネギのような線形の葉がいくつもある、1m程の植物だ。これだけ大きな植物は少ないのでおそらく間違いないとは思うが、念の為リリティアさんに見て確認してもらおう。
「これは、さっき教えてもらった山菜ですか?」
「ああ、そうだ。お前がノビルナと名付けた山菜だ」
やはり、道中で名付けたノビルナで間違いなかったようだ。ノビルを巨大化させたような見た目をしているが、根っこが球根ではない。根っこは食べられず、葉っぱの部分だけを食べるそうだ。試しに噛んでみると、ネギのような味がした。
ノビルに似ているが、根は食べずに葉を食べる。それでノビル菜という名付けた。加えて繁殖力が高く、増えて他の植物を駆逐するため、これ以上「伸びるな」という意味もあった。・・・まあこれは偶然だけど。
周囲に見えているノビルナを全て採集して背負い籠に入れた。地中深くまで張っていた根っこごと引き抜いた際、ミミズやダンゴムシのような虫が這い出てきた。ミミズに似た生物はノロノロと、ダンゴムシのような虫は素早く、四方八方へ逃げていった。彼らには悪いが、新しい寝床を探してもらおう。
ノビルナのような大きな山菜は、探すのが簡単で助かる。もちろん大きければ大きい分だけ、引き抜くのに力が必要だ。しかし、這いつくばって探さなければならないような、小さな山菜を探すよりは遥かに楽だった。一度にたくさん採れるため達成感も大きいし。
ついでに、近くに生えていたキノコを採る。まっすぐに伸びた木の、その根本に群生している。全体が白く、傘は円形でひだを持っていない。念の為少しだけ採取せずに残して、採取したものは紙で包んで青いキノコと同じ革袋に入れた。
「ちょっといいか。あちらにある山菜を採集してほしい」
キノコを革袋に入れ終えると、リリティアさんが声をかけてきた。ノビルナを採集している最中は他の場所を探していたが、少し前から近くを飛んでいた。どうやらキノコを革袋に入れるのを待って、声をかけてくれたようだ。
「わかりました。今行きます」
案内するリリティアさんに付いていくと、突如視界が開けた。樹木がなく、一面くるぶしほどの高さの草に覆われている。10m四方よりは大きいだろうか。森の中では数少ない、地面まで陽の光が届く場所だった。
生えている植物の葉はハート型をしており、線状に白い模様が入っている。葉より高い位置に赤紫色の茎を伸ばして、小さな白い花を付けている。
「この辺り一帯にあるものが山菜だ。これはシュエード・シアといって、ノビルナよりも繁殖力が高い。この辺りに樹木が生えていないのは、おそらくこの山菜が他の植物を寄せ付けなかったためだろう」
「そんなに強い植物なんですね。なら、今回も全て採取すればいいんですか?」
「ああそうだ。だが、折角日の当たるところに来たんだ。ひとまず昼休みにしようじゃないか。時間もちょうどいい頃合いだ」
そう言われて見上げてみると、太陽はかなり高いところまで上っていた。太陽に向かって、地図上の現在位置マークを確認してみると、ちょうど南を向いていた。
「もうお昼ですね。では弁当を持ってきているので、昼ご飯にしましょうか」
森の中といえども昼休憩はきちんと取る。労働環境はブラック気味でも、労働時間はホワイトな職場なのだ。