三日目・寄せ鍋⑥
その後も順調に山菜採りを続けた。新しい山菜を見つける度に、リリティアさんは見分け方などを教えてくれた。その度に紙に書き込んでいるのだが、メモをした山菜の数も10を超えた。A4に近いサイズの紙も、もう余白が少なくなってきた。
もっと紙を持ってくればよかったかな。そう思っていると、リリティアさんがある植物を指さしていた。
背丈は腿のあたりまである、葉先がギザギザした草だ。根っこから引き抜いた
「これは食べられる。香りが強いのが特徴だな。ほれ、葉っぱを食べてみろ」
上の方の柔らかそうな葉っぱを選んでちぎり取り、口に含んだ。
かじってみると、清涼感が口の中に広がった。そして、ミントを思わせる爽快感が鼻を抜けた。
「これはスッとしますね」
「ああ、面白い味がするだろう。これはハンカといって、食材というよりは嗜好品として食べられることが多い。それに、胃腸にも良いと言われている。こちらの食事に慣れるまでは、気をつけて摂っておくといいだろう」
今のところ胃や腸に異常はないが、異世界に来て初めて食べるものばかりだ。食あたりなどには注意しておくに越したことはないだろう。
もう一枚、葉をちぎって食べた。これは少し癖になりそうな味だ。
「それと、見つけたらできるだけ抜いておいてくれ。繁殖力が高く、放って置くとあっという間に増えてしまう」
周辺にもまだまだ生えているようだ。同じような草を見つけ次第引き抜いて、背負い籠に放り込む。
周囲を探しながら、時折手に持っているハンカの葉をかじった。鼻に抜ける清涼感が癖になってきた。
とはいえそれほど大量に食べるものではないので、採取したハンカの葉はほとんど売りに出すことになりそうだ。
「もうこの辺りにはなさそうだな。先に進もうか」
リリティアさんにそう言われて、周囲を見回した。10数本は抜いただろうか。おかげで、ハンカの葉はもうなさそうだった。
先に飛んでいったリリティアさんを追う。初日は彼女の小さな体を見失わないように懸命に追っていたが、そろそろ慣れてきた。
「あ、キノコ」
途中でキノコを見つけて止まった。それに気づいたリリティアさんも身を翻して戻ってきた。
「なんかすごく毒々しい色をしてますね・・・」
「ああ・・・この色は食べるのを躊躇するな」
見つけたキノコは、白い柄と半球形の傘を持っている。形はごく普通のキノコだ。
問題は色である。傘は全体が鮮やかな青色をしており、ところどころに赤銅色の斑点がついている。
俺の経験上、青色をしたものは基本的に食べ物ではない。例外はかき氷シロップのブルーハワイくらいだ。このキノコが2つ目の例外になるとは、あまり思えなかった。
「どうしましょう?」
「食べたくなければ見逃してもいいぞ?」
確かにその提案は魅力的なので、気持ちは揺らぐ。だが、見た目だけで判断していいのだろうか。この先どんな食材があるのか、どれだけの食材が採れるのかわからない。思い込みで勝手な判断をして、可能性を狭めてしまってもいいだろうか。以後、安定的に食料を確保していくためには、先入観を捨ててあらゆる食べ物に挑んでいく姿勢、それが求められるのではないだろうか。
「・・・採ります。キノコは見つけ次第採るというのが、出発前の決めごとでしたから」
これはリリティアさんと話し合って決めたことだ。キノコに関しては見分けがつかないので、持ち帰って機材で食べられるキノコを選別することになっている。
「そうだな。確かに、約束は守られるべきだ」
うなずくリリティアさんを見た後、勇気を出して採取することにした。触ったら何か飛び出して来ないだろうか。震える手で慎重にキノコを掴んだ。触った感触は、エリンギのようなしっかりとした弾力があった。
恐る恐る、ゆっくりと引き抜く。
「よかった。何も起こらない」
無事、怪しげなキノコの採取に成功した。