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森林開拓日誌  作者: tanuki
森を守るお仕事
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三日目・寄せ鍋③

 「ん?それはどういう意味だ?」

 リリティアさんは要領を得ないといった様子だ。

 「朝も確か、指導員をお役御免になるって言っていましたよね。俺はてっきり、一緒に森を管理していってくれるものだと、そう思っていたのですが」

 疑問をぶつける俺に対し、リリティアさんは少し考えているようだった。そして、逆にこう質問をした。

 「お前は、アイリアからどう聞いている」

 「アイリアさんからは、リリティアさんと一緒に問題の解決に当たれと言われていますが」

 この森へ転送された日の夜、アイリアさんに直接言われたことだ。俺の言葉を聞いて、リリティアさんはようやく得心がいったようだった。

 「なるほどな。私は、お前が森の守護者としてやっていけるように指導をしてほしい、そう言われただけだ。期限に関する話は、特に聞いてはいない。アイリアもきちんと決めてはいないだろう」

 「そうなんですか・・・」

 ならば、ある日突然いなくなってしまうこともあるのだろうか。それはとても困る。ロクな指導もないまま、ホールに放り出された苦い思い出が蘇る。仕事が終わった時に安堵感からか涙がこぼれたこともある。思い出したくなくて蓋をしていた記憶だ。

 「そう心配そうな顔をするな。お前が一人でこなせるようになるまではいてやるから」

 「本当ですか?でも、他の場所へ行けと言われる可能性だって・・・」

 リリティアさんも、アイリアさんの指示で来ているのだ。自分の判断で残ったりはできないだろう。

 「少し落ち着け。・・・アイリアは怠け者だが気配りはできる。お前がきちんとやっていけるようになるまでは、私を他所へ動かしたりはしないだろう。その点は信用しても大丈夫だ」

 「そうですか・・・よかった。リリティアさんがいなくなったら、俺にはなにをすればいいのか全くわからないですから」

 外れかかった記憶の蓋が、閉じるのを感じた。

 「頼りにされて悪い気はしないが、早く一人前になるよう努力はしてくれよ。まあ、現状一番の問題はこの森だからな。解決の目処が立つまでは、余程の問題が起こらない限り、私もこの森を離れることはないだろう」

 「そうなんですか?」

 「ああ、シーヴェストでの伝染病だけは少々懸念があるが、まだ様子見の段階だな。広大な森林が壊滅するかもしれないから、この森のほうが優先度が高い。だからこそお前を守護者にし、サポートに私が派遣されたわけだ」

 「それは責任重大ですね。頑張ります」

 「まあ2日間の仕事ぶりを考えれば、今までどおりやってくれればそれでいい。それと、何度も言っているが、私は指導とサポートと来ただけだ。アイリアはともかく、私はお前の判断に異議を唱える立場ではない。この森の責任者は自分だということは、意識しておいてくれ」

 この2日間、割と俺の希望を尊重してくれていたのは、俺が責任者だからだったのか。俺がリリティアさんの下につく形だと思っていたから、少し違和感があった。俺とリリティアさんは、立場的には並列の関係のようだ。来たばかりの人間に対しても立場上の関係を遵守するリリティアさんは、とても律儀なのだと思う。

 「ところで、そろそろ山菜を引き抜いたらどうだ?」

 すっかり忘れていた。元々、これを引き抜くために軍手をするという話だった。まあ、結果として気になっていたことが、色々はっきりしたのでよしとしよう。

 きちんと軍手をはめて、山菜を根本から引っ張ってみる。すると、簡単に抜くことができた。水分を多く含んでいるため、地面が柔らかいのだろう。

 「根っこでしたね。うーん、普通の根っこのようですが」

 主根から側根が枝分かれして、糸状に広がっている。根っこと言われたら、真っ先にイメージする形だ。

 「有毒の草は、節のある地下茎を持つ。だから抜いてみて、根っこの状態を確認すれば間違えることはないだろう。それと、毒草のほうは独特な匂いがないから、匂いを嗅いでみてもわかる」

 説明を聞いて、じっくり見てみる。葉っぱよりも、花に特徴があるので、花が咲いている時は見つけやすいだろう。

 「ところで、これはなんていう名前の山菜なんですか?」

 「ああ、名前を教えていなかったな。この山菜はスエリという」

 「スエリ、と」

 ポケットからペンと紙を取り出して、スエリと書く。その横に花の色や形、毒草との違いを走り書きした。

 「おお、メモをしているのか。いい心がけだ」

 「昨日紙が作れるようになったので、折角だから使おうと思いまして。ペンは家に元々置いてあったものを拝借してきました」

 最初の報告書を書いた時に使用したペンが、そのまま残っていたのだ。軸が細いため、少々使いづらい。

 「そのペンはアイリアのものだろう。忘れたのか、わざと置いていったのかはわからないが」

 このペンはアイリアさんのものらしい。軸が細いのも、彼女の細い指に合うものを使っているためだろう。

 「いずれにせよ、お前が使っていて問題はないだろう。どんどんメモを取って、色々なことを覚えていってくれ」

 メモを書き終えたのなら、山菜採りに戻るとしようか。そういうとリリティアさんは、小川の上を飛んでいった。

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