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森林開拓日誌  作者: tanuki
森を守るお仕事
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三日目・寄せ鍋②

 「泉までの道には、あまり山菜がなかった。だから今日は、西側を探そうと思う」

 家を出たリリティアさんは、そう言って飛んでいった。地図を取り出して確認したところ、真西に向かって正確に飛んでいた。

 カゴを背負い、右手に革袋を持って後を追う。念の為に胸当てを着けて、ベルトに剣を吊り下げてある。刀を差す正しい方法を知らないので、紐で適当に縛って鞘とベルトを固定しただけだ。そのせいなのか、歩く度に剣が揺れて歩きづらい。左手で柄を抑えながら歩くのが少々不便だ。

 そうしてしばらく歩いていると、かすかに水の流れる音が聞こえてきた。

 木々の間を小さな川が流れていた。川と言っても、幅数十センチほど、深さもほとんどなかった。

 「ふむ、小川があるな。ちょうどいい。これを遡上していくように探すとしよう。水辺に生える山菜がいくつかあるんだ」

 「わかりました。でも、俺にはどれが山菜で、どれが食べられない草なのかわからないですよ」

 山菜や野草についてはあまり詳しくない。大学時代に生活費を切り詰めるため、食べられる野草を少し調べたことがあった。その時に覚えた知識はあるが、毒草と山菜を完全に見分けることなんてできない。そもそも、異世界であるこの森では日本での山菜の知識なんて役には立たないだろう。

 「わかっている。見つけ次第、お前に見せるから覚えてくれ。毒草との見分けがつきにくいものもあるが、少しずつ覚えてくれればいい。仮に間違えて持って帰ってしまっても、毒草を選別することはできるから心配することもない」

 毒草を選別するというのは、昨日言っていた機材のことだろうか。実物を見てないんだけど、一体どういうものなんだろう。機材というと、大きな機械をイメージしてしまうけれど。

 リリティアさんは小川の上を飛びながら、周囲を見回している。水面スレスレを飛んだり、俺の頭よりも高いところを飛んだりしている。ああやって視線の高さを変えられるのは、探し物をするのに便利そうだ。

 「む、あれは・・・」

 俺の腰ほどの高さを飛んでいたリリティアさんが、突如草むらの中に入っていった。辺りは膝ほどの高さの草で埋め尽くされていた。ところどころ、小さな白い花が咲いている。

 「間違いない、見つけたぞ」

 草むらの上で手招きされたので、リリティアさんがいるところへ向かう。

 「これは茎や葉が食べられる。汁物の具にしてもいいし、衣をつけて油で揚げてもおいしいぞ」

 リリティアさんが指している植物には、いくつもの小さな白い花が放射状に咲いている。近づいてみると、爽やかな匂いがする。

 「この種は群生するから、1つ見つければ近くに大量に生えていることが多い。ただ、よく似た有毒な野草があるから注意しろ」

 「似たものですか?」

 「ああ。違いは根っこを見てもらうとわかりやすい。ちょっと抜いてみろ」

 そう言われたので、その草を抜こうとした。

 「待て待て、素手で触る気なのか?軍手を持ってきているのだろう?ちゃんと軍手を使え」

 慌てて止められてしまった。素手で触ってはまずいのだろうか。

 「これは素手で触っても大丈夫だが、触るだけで指が爛れたりかぶれたりする植物もある。念の為、植物に触れる時は常に軍手をしておけ」

 「わかりました、ありがとうございます。これからは気をつけます」

 確かに、迂闊だったかもしれない。漆に触れるとかぶれることがあるのは有名だし、触るだけで有害なキノコなんかもあるらしい。

 自然に直に触れることは危険な場合もある。わかっていても、つい忘れてしまいがちなことだ。

 「ああ、なるべく気をつけてくれ。それに、気をつけるのは植物だけじゃない。近くに潜む虫や蛇に噛まれることもあるからな。・・・とはいえ、お前にはそれほど気にする必要もないが」

 「え?どういうことですか?」

 「アイリアの加護の力だ。毒に対してある程度耐性がある。この森に住む毒虫や毒蛇程度ならば死ぬことはないだろう」

 アイリアさんの加護、そんな効果もあったんだ。マナに関する説明を受けた時もそうだったけれど、実感がないのでよくわからない。実感があるのは、柔らかくてすべすべとした両手の感触だけだ。

 「強力な毒を持つ毒蛇に噛まれたところで、精々数日間うなされる程度だ。それほど心配しなくていい」

 「いや、それ全然心配しなくていいってレベルじゃないよ!十分不安になるくらいですってそれ」

 あまりにも軽く言われてしまい、思わずツッコミを入れてしまった。少し言葉が乱れたが、今のはリリティアさんが悪いだろう。

 「ははは、そうかそうか。まあその毒蛇は大人しくて臆病な性格だ。こちらが不必要に追い詰めたりしなければ、あちらから勝手に距離を取ってくれる。だから、慎重に行動してくれればそれほど脅威ではない」

 わかりにくかったけれど、冗談だったようだ。

 「それでも万が一何日も寝込むことになった場合は・・・仕方ないから、回復するまで私が付きっきりで看病してやろう。まあその時に私がいれば、だがな」

 手のひらサイズでは看病と言ってもできることは限られるんじゃないだろうか。いや、それよりも気になることがある。

 「あの、出る時も言ってましたけど、リリティアさんはずっといてくれるんじゃないんですか?」

 出てから今まで、そのことが気になっていた。リリティアさんはこの森の管理を、俺と一緒にやってくれるんじゃないのだろうか。

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