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森林開拓日誌  作者: tanuki
森を守るお仕事
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女神アイリアの管理業務

 眠い目をこすりながら執務室に入ると、私はまずお湯を沸かした。そして、少し前に先輩からもらった瓶を開け、中に入っている黒い粉をカップに入れます。適量は匙で二杯くらいと言われましたが、濃い目が好きな私にとってはもう半分入れるくらいが適量です。

 しばらく待っていると、お湯が沸いたのでカップに注ぎます。すると湯気と共に、香ばしい匂いがカップから立ち上ってきます。

 先輩は確か、インスタントコーヒーとか言っていましたか。現在担当している区域で買ってきたそうです。温かい飲み物をすぐに飲める便利なものだ、そう自慢げに話していたのを思い出します。

 もっとも、時間の感覚が緩やかな多くの神々にとって、すぐに飲めることはそれほど評価されません。だから、この手のものはあまり作られないんですよね。あっても割高で、頻繁に購入するのは財布に厳しいです。

 ですが、私は別の意味で素晴らしい飲み物だと思います。何しろ、手間がかかりません。お湯さえ沸いていれば、お湯を注ぐだけで飲めてしまいます。こういった便利な飲み物がもっと普及すればいいのに、そしてもっと安くなればいいのにと思います。

 インスタントコーヒーを飲んだことで、眠気が少し遠のきました。まずは、衛星カメラの映像をチェックすることにしましょう。いくつかある担当区域上空を回る衛星を西から順番に見ていくのが、朝一番の仕事です。常日頃からきちんと監視をすることが、管理業務を円滑に進めるための一番確実な方法です。というよりも、これさえ欠かさずやっておけば何か問題が起こったとしても、私の職務怠慢が原因とはなりません。

 最初に確認するのは連合国家シーヴェスト西部に位置する、ネザール王国上空の衛星です。この国は半島の先端にあるため、漁業が盛んです。ズームして近海にカメラを向けると、たくさんの船が出ているのが見えます。うん、いつも通りの光景です。特に異常はないようですね。

 次はシーヴェスト南東部を映す衛星です。この地域はいくつもの都市国家と、少数民族の村が点在する地域です。いくつかの都市国家の中ではいつもと変わらず朝市が開かれていて、賑わいを見せています。少数民族の村々も含めて、こちらも映像を見る限りは異常はなさそうですね。

 そして、連合国家シーヴェストを映す3つの衛星カメラのうち、最後の1つはイングラ王国を映しています。盟主であるこの国には、連合国家内の他の国々よりも大きな王城があります。その王城を囲うようにできた城下町にはいくつもの鉄工所があり、煙突からモクモクと煙を吐き出しています。

 シーヴェストに問題は見られなかったので、次に行きましょう。担当区域中央部の、リリと守さんを派遣した森林です。相変わらず樹木で覆われていて、森の中の様子は何もわかりませんね。いくつかある大きな河川と、西側にある大きな湖以外は、ほとんど緑色しか見えません。

 春は桃色や山吹色に咲いた花々。秋は赤や黄色に染まる紅葉。対してこの時期は、上から見る分にはあまり代わり映えがなくて面白みがありませんね。

 西から東へとカメラを移動させていくと、円形に樹木のない場所が見えます。まるでぽっかりと空いた穴のようで、その穴の中に荘厳な家が建っています。

 ふふふ、上空から見ても私の家は素晴らしいですね。設計や装飾に関して、何日もかけて拘った甲斐がありました。建築課の方たちはみんな苦い顔をしていましたが、良いものを作るためには妥協はできません。

 その素晴らしい家の近くにも、それより小さな穴が1つあります。ズームして見てみると、小屋のようなものがあります。赴任して2日目の今、守さんは食料と水の確保に奔走している頃だと思いますが・・・。

 森の守護者として最初にすることは、生きていくための食料と水の確保です。森に生き、森の恵みを享受する。そうして初めて、守護する存在とその意義を理解できる・・・らしいです。食料や生活必需品を送らないことを、神々が正当化するための屁理屈とも言われていますが真偽はわかりません。

 あ、今小屋の近くで森が光りました。守さんが神の門を使ったようです。

 光ったところを確認すると、2つ目の小屋ができています。

 当然、家にも収納スペースくらいはあります。倉庫やクローゼットには道具類をあるだけ詰め込んだので、入れるスペースはあまりないでしょう。しかし、キッチンには床下収納など、食材を保管する場所はいくつかあります。それにも関わらず、2日目に2つも小屋を作る必要があるのでしょうか。これは気になります。日報を楽しみに待ちましょう。

 ピロリーン。

 そんな風に思っていると、電信が来ました。差出人はリリのようです。日報の時間には早いですし、なんでしょうか。カメラの確認は後回しにして、内容を確認してみましょう。

 「資料捜索依頼。43年前の戦争以後の資料で、ドリアードに関わる資料がないか探してほしい。森林で植物の大量枯死が起こったため、当時の神がドリアードを派遣したかもしれない。書類の山を捜索するのは困難だろうが、可能な限り早期に頼む」

 資料捜索とは、リリらしい皮肉めいた表現ですね。・・・その表現が適切であることが事実なので何も言い返せないのですが。

 ちらりと資料室の方に目を向けると、自然にため息が出てしまいます。赴任当初、前任者が残した膨大な資料をとりあえず資料室に詰め込みました。そして、そのまま放置されています。当然、整理なんてものをきちんとしているわけがありません。

 あの中から資料を探すのか・・・考えるだけで気が滅入ってしまいますね。しかし、リリからの依頼とあればやらないわけにもいきませんか。あの子、怒ると本当に怖いですから。

 あの資料室から探すとなると、時間がかかりそうですね。膨大な資料があることはリリもわかっていますし、時間がかかると最初から思っているはずです。時間を見つけて少しずつ進めていきましょう。

 でもそれは後回しにして、衛星カメラのチェックが終わってからにしましょう。

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