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森林開拓日誌  作者: tanuki
森を守るお仕事
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二日目・水の妖精⑬

 「休むといいと言ったはずだが・・・家に戻ってもまだ仕事をしているのか?」

 リビングのソファに座って作業をしていたところ、リリティアさんに尋ねられた。

 夕食を済ませた後、暇つぶしがてらに後回しにしていた仕事をしていたのだ。といっても、仕事と呼べるほど高度なものではないけれど。

 「仕事なんてそんな大したものではないですよ。子供の遊びみたいなものです」

 「子供の遊び?その、紙を折っている作業がか?」

 「ええ、折り紙と言って日本・・・俺の国にある遊びの1つです。複雑なものは100回以上折るような大作もありますが、俺には無理ですね」

 昔に一度調べたことがある。折り方の図を見ても何がどうなっているのかさっぱりだった。紙を折る前に心が折れて止めたのだ。

 今、折り紙を折っているのは、町へ行った時に売り物にならないかと思ったためだ。草を材料に作れるものの中に、紙があった。これを使って何か作れないかと思った結果が、折り紙だったのだ。日本以外の国では、折り紙が意外と喜ばれると聞いたことがある。紙一枚から立体造形を生み出せることが、海外の人には不思議らしい。ならば、異世界の住人たちにも喜ばれるのではないか。商品としてそれなりに利益になるんじゃないかと思ったのだ。

 「と、まあこんな感じでできあがりです」

 折ったものを見せると、リリティアさんは周囲を周って観察した。

 「面白いな。これはなんだ?」

 「鶴です。折り紙としては定番ですね。ただ、この世界に鶴みたいな鳥がいるかどうかわからないので、町で受け入れられるかどうかはわかりませんが」

 「なるほど、鳥なのか」

 鳥だと言われれば鳥だな、と言ったところか。まあ、折り紙の鶴自体が、実物の鶴とそっくりそのままというわけでもない。言われて気づく、くらいでも仕方ないかもしれない。

 「どうですか?商品として町で売りに出していいですか。いや、そもそも売れますかね」

 しばらく眺めていたリリティアさんが、うん、と一度頷いた。

 「これなら売っても構わない。むしろ、金持ちには受けるかもしれないな」

 「金持ちに、ですか?日本では一般庶民の遊び程度なんですが」

 「紙自体が、庶民にはそれほど安いものではないんだ。手が届かないという程でもないが、遊びや飾りに使えるほど安価なものではない。折り紙は豪商や貴族向けに売るのがいいだろう」

 紙はそれほど普及していないようだった。この世界の文化レベルが少しはわかる気がした。

 紙は文化や技術の発展に重要なものだ。情報伝達や技術継承のためにも、文字で残せるものは多いほうがいい。

 「それならば、真っ白な紙も売りましょうか。つる草が原料なので、いくらでも作れますし」

 「売ることは構わないが、少量にしておけ。市場に大量に出回れば値崩れが起きるからな。製紙業者を路頭に迷わせることに繋がりかねない」

 「そうですね、わかりました」

 神様たちの技術を利用して市場を独占する。それは容易いことかもしれないが、この世界の住民に悪影響を与えることは慎むべきだろう。

 話を止めて、折り紙作りを再開した。

 鶴の次は、紙風船を作った。リリティアさんは興味深そうに見ている。

 久しぶりに折ったこともあってか、少し形が悪いが許容範囲だろう。それに、形が悪いのは俺の技術だけのせいではない。つる草を原料にした紙は、あまり品質がよくなかった。今の日本で市販されている折り紙と比べてはいけないかもしれないが、ザラザラとしていて折りにくい。これでは書く時にも、筆が引っかかりそうだ。書物への利用は困難かもしれない。

 その後、思いついたものを次々と作っていった。リリティアさんはテーブルに座って折り紙を見ていた。

 しばらくして、リリティアさんが思い出したように言った。

 「ところで、明日は何をする?まだつる草を集めるのか?」

 手裏剣を折っていた手を休めて考える。はっきり言って、折り紙にする紙は十分にある。そのまま売る分を考えても、これ以上集める必要はあまりないだろう。

 「そうですね・・・あまり考えてなかったですね」

 「ならば山菜採りにでも行こうか。それに、果実やキノコもいいな。お前が食べてもいいし、町で売ればそれなりの値段で売れるだろう」

 そろそろ、毎日三食とも代わり映えのない食事に飽きてきたところだ。ホージュの実以外の果物や、山菜が採れるのは願ってもないことだった。

 「それは嬉しいですけど、食べられるものかどうか判断つきませんよ?毒キノコなんて食べて死にたくはないです」

 今までも、食べられそうなものは見かけた。わらびやゼンマイ、フキに似た植物を見た。だが、ここは日本ではない。似ているだけで毒があるかもしれないと思い、採取することを断念していたのだ。キノコは尚更だった。

 「食べられる山菜は、大体のものなら私が知っている。それに毒の有無に関しては、きちんと調べられるから安心しろ。昼の間に、倉庫の中で機材を見つけてきたからな」

 「わかりました。それならば、明日は山菜採りでお願いします」

 どうやって調べるのだろうか。不思議には思ったが、リリティアさんが言うからには大丈夫なんだろう。

 明日は久しぶりに、サンドイッチとホージュの実以外のものが食べられそうだ。

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