二日目・水の妖精⑩
まず、家の周囲の木を見回す。つる草の侵食が及んでいない場所がいくつかあったので、その内の1つを選んだ。樹木は密生しているが、つる草が絡まってはいない。まさしく、理想的な状況だ。
神の門を使って、3本の樹木が中に入るように魔法陣を描く。いちいち切り落として根っこを掘り起こすことはしない。だから、多少根っこの上に線を引くことになってしまうことになったが、それもお構いなしだ。波打ったり曲がったりしても大丈夫なことは、昨日リリティアさんに確認済みである。
今回作るのは脚立だ。はしごよりも形状が複雑な為、必要な木材は少し多かった。しかし、3本もあれば十分だろう。門の形をした置物を置いて、神の門を起動する。いつもどおり、魔法陣が眩しく光り輝いた。
地面からまっすぐに伸びた3本の樹木は、光の中に吸い込まれるように消えていった。
よし、成功だ。
光が消えると、高さ3m程の脚立と1本の木が地面に置かれていた。どうやら、2本で十分だったようだ。
小さくガッツポーズをする。思いつきを試しただけだったが、うまくいってくれたようだ。お陰で今後は、木を切り倒したり根っこを引き抜いたりしなくてもよくなった。
続けて、脚立の3台セットを作った。これはサイズ違いの脚立が3つまとめて作れるものだ。サイズは先ほど作った脚立、長さがその2倍のものと3倍のものである。
そういえば、水を汲みに行くのにタルが必要だったな。朝作った「ベルト付き木製タル 中」でいいか。水汲み用のタルのサイズとして覚えておこう。
ついでにタルも3つセットのものをおまけで作った。こちらは、真ん中に取っ手が2つ付いている「取っ手付き木製タル」シリーズだ。中型以上は持てそうにないので、極小、小、中の3サイズである。
便利なものが作れる上に、森の健全化も同時に行う。そんな一石二鳥の行為が短時間で済んでしまう。我ながら素晴らしいアイディアだ。朝からこうすればよかった。
更に少し大きいものも作ってみよう。何がいいだろうか。とりあえず、昨日も作った小屋にしよう。今後、売れるものなどを備蓄するためにも、倉庫として利用できる建物があったほうがいいだろう。家にある倉庫は、まだ使っていない道具がいくつも置いてある。新しく作ったものに関しては、小屋にまとめたほうがいいだろう。
直径7mの円を描くのは、密生した森の中では難儀だった。しかし、どれだけ線が曲がっていても、神の門は問題なく機能するらしい。木を避けるように線を引いたため、円とは呼べないようなものになってしまった。はっきり言って、ほぼ波線で円を描いたも同然だ。円の中の模様も、当然木を避けながら引いたので、直線を引くべきところもあちこちが曲線になっている。本当にこれでも機能するのだろうか。
魔法陣が完成・・・と呼べるかは疑問だが、線は引き終えた。しかし、今回はこれだけで完成ではなかった。つる草が絡みついているのだ。直径7mの円周上につる草が全く伸びていない、そんな都合のいいところはなかった。魔法陣の中の木と外の木にまたがって伸びているつる草は、取り除いておく必要があるだろう。脚立に登って1つずつ切り離す。結構手間な作業だったが、仕方がない。元々が泉の底だった昨日とは違い、今後はつる草が繁茂する中での作業が増えることは間違いないのだ。そもそも、つる草の繁茂を食い止める事自体が、俺に与えられた仕事である。
脚立に登ってつる草を切り、降りて脚立を移動させてまた登る。その繰り返すを何度か繰り返し、ようやくつる草の除去が完了した。そうして門の形をした置物を魔法陣の端に置いてみると、無事に機能した。やはり魔法の粉が光るようで、光の発生源が波打っていた。
光が止んで小屋が現れる。使われなかった木が2本と、つる草などの草花が小屋の隣に置かれていた。どちらも、後で必要となるので取っておく。しかし、わざわざ草をむしったり、つる草を切り取らなくてもいいのは楽でいいな。木に巻き付いたつる草を、完全に取るのはかなり時間がかかりそうだ。
続けて、2つ目の小屋の製作に取り掛かった。小屋は合計、3つ作るつもりだ。倉庫としては2つもあれば十分だろうけれど、予備としてもう1つあったほうがいいだろう。それと、この後、草花が大量に必要なため、その採集もまとめて神の門にやってもらおうという狙いだ。
そして、3つ目の小屋も作ることができた。初回よりも、2回目。2回目よりも3回目と、小屋製作もどんどん作業が手早く行えるようになった。やはり、肉体労働は回数を重ねて慣れていくのが一番だ。
一旦、つる草や雑草を革袋に詰めて小屋にしまった。状態のいい花は、別のところに丁寧に並べておいた。花も全体的に力強さに欠けて弱々しいが、様々な種類の花があった。
使われなかった樹木はとりあえず、小屋の横に並べておいた。適当なサイズに切り分けて小屋にしまうつもりだが、面倒なので後回しにした。
いい感じに作業が進んでいる。草花はまだまだ足りないが、それは午後からでもいいだろう。小屋の影は短く、見上げると、太陽の光は真上から降り注いでいる。陽光から逃れるため、小屋の壁に背中を預けた。
そろそろ昼休憩にしようか。泉で水を汲んできて、それから昼ご飯を食べよう。