二日目・水の妖精⑧
リリティアさんは俺がやりたいことを優先してくれるそうだ。というよりも、現状は特に仕事がないようだった。俺の仕事は異常生育の原因究明とその対応、それと外来生物と思われるつる草の駆除。それ以外は何してもいいらしい。家でサボっていても、森で遊んでいても問題ないとのことだった。最終的に森が元に戻れば、それ以外は何しても構わないのだそうだ。
何をしたいか。というより、何をしたほうがいいだろうかを考えたほうがいいだろう。森の中で生活をする上で、2週間以上あるだろう空き時間。これを活用して便利な生活を確立することが得策だろう。足りない物は、なんと言っても食材だ。このままでは数日でホージュの実しか食べられるものがなくなってしまう。まずは他の食材を探すことから始めよう。
そこまで考えてふと思う。前の仕事を辞めてからの3ヶ月間、俺は何をしていただろうか。夜遅くまで起きてネットの動画とアニメを観るだけの日々だった。もちろん、ネットの動画もアニメも面白く、観ていて無駄だったとは思わない。しかし、新しいことを始めるでもなく、ましてや就活をすることもなく過ごした3ヶ月は、もっと有効に使えた時間のように思えた。
もっとも、前職で疲れ果てた、心と身体を癒やす時間は必要だった。辞めてすぐの頃には何も手がつかなかったし、そういう時間は必要だろう。それでも、3ヶ月は長すぎたように思う。そう考えると、きっかけを与えてくれたアイリアさんには感謝するべきだろう。森の中とはいえ、就職先まで与えてくれた。
「食べ物を調達したいですね。今はアイリアさんが用意してくれた肉やバケットがありますが、それも後2日でなくなってしまいますから」
炭水化物、脂肪、タンパク質。この3つの栄養素の確保が最優先だ。ホージュの実にどんな栄養素が含まれるかわからないが、おそらく三大栄養素は含まれていないだろう。
「食材の調達か。そうだな、ホージュの実以外にある食材となると・・・山菜やキノコはどうだ。この森の中ならば探せばいくらでも見つかるはずだ」
山菜やキノコを探して食べる。それは朝にも考えていたことだけれど、一つ問題があった。
「毒があるかないか見分けがつかないですよ。それにできれば肉や魚、後は主食となるパンや米が欲しいです」
「そうか。そうなると、町へ行くのが一番早いだろうな。歩いて1日以上かかるから、少々時間はかかってしまうが」
近隣に町があるとは聞いていたし、その内に行ってみたいとは思っていた。
「しかし、買い出しに行くには一つ問題があるが、気付いているか?」
はて、問題とは何だろう。まず、1日中歩き続けることは困難だ。その後買った荷物を持って帰らなければならない。しかし、その距離を「少々」と言い切られてしまっている以上、問題と思われてはいないはずだ。となると、町へ行った後のこと。
ようやくここで思い至った。
「お金がないですね。何かを買おうにも、ここで使える通貨を持っていません。日本のお金は使えないでしょう。つ、使えたらよかったんですけどね!」
・・・少し見栄を張った。円が使えたところで、財布の中も通帳の残額もわずかだった。
「そういうことだ。町へ行く前に、何か売れるものを用意しなければならない」
この森にあって、売れる何か。
「神の門で朝のようにタルなんかを作り出して、それを売りましょうか」
他にも、色々なものが作れるはずだ。材料となる木材はいくらでも手に入る。
「それもいいが、あまり高度なものは持っていくなよ。こちらの技術水準とかけ離れたものを流通させることは、決して好ましいことではない」
オーバーテクノロジーなものが突然売りに出されたら、確かに混乱が起きるだろう。こちらの世界の技術レベルに合ったものを、リリティアさんに選んでもらうしかなさそうだ。
「それと、木製のものはあまり売れないぞ。町でも樹木は増えている。木を減らすためにも、木材の加工は盛んに行われていて、値崩れを起こしている」
主力商品と思っていたのだが、木材を使用した製品を売りに出すことは難しそうだ。密生した樹木をまず間引く。そうして間伐材で収益を上げる、いいやり方だと思ったのだが。
「そうなると、何がいいでしょうか。食材も後数日で尽きますし、町への往復を考えるとのんびりもしてられません」
「そうだな・・・先ほど言った山菜やキノコを採取して売るか、石を利用したものを売るといいだろう。その他は、自分で色々考えてくれ。神の門以外にも、様々な道具がある。それらを利用してくれても構わない。一応後で確認はするが、神々の道具を使ってお前が加工するくらいなら問題はないだろう」
「わかりました。色々調べてやってみます」
まず、神の門で作れるものを確認しよう。木製品のページ以外はあまり読んでいないので、その他のページから売れそうなものをチェックする。材料の準備が容易で、高く売れそうなものがあればいいのだが。