二日目・水の妖精①
パッパラパパパパラパパッパラッパパー。
今日も起床音楽によって目が覚めた。
ベッドから起きて簡単にストレッチをする。手首・足首を回し、ふくらはぎを伸ばした。昨日一日肉体労働を続けたのに、筋肉痛がなかった。少し体が重いかな、と思うくらいだ。前の会社を辞めて3ヶ月、あまり外出自体せず、家に閉じこもっていた。そんな鈍った体で一日中森の中で体を動かしていたのだ。絶対に筋肉痛になると思っていたが、それがない。思ったよりも体は鈍っていないのかな。
股関節や肩周りの筋肉など、一通りの筋を伸ばして終わりにした。
さて、まずご飯を食べようか。肉はまだ残っているので、干し肉とパンにしよう。
アイリアさんが用意してくれた肉やパンがなくなれば、収穫できるホージュの実しか食べるものがなくなる。飢える心配はないようだが、それだけ食べていくのは侘しい。人はパンのみにて生くるものに非ず、という言葉もあるくらいだ。たぶん、意味は全然違うだろうけど。
幸い、ここは森である。森の中に自生する植物を探せば食べられるものは沢山あるだろう。とはいえ、食べられるものと食べられないものを見分ける術がない今、迂闊に採集して食べるのは危険だ。見分ける方法さえあれば、食卓が豊かになるだろう。それと、森の動物にイノシシみたいに食べられるものがいるはずだ。昨日は鹿のような生き物もいた。異世界の様々な食べ物を食べる。それを楽しみに仕事に励もう。
そこまで考えて、水がないことを思い出した。ここは異世界、蛇口をひねれば水道水が出てくる世界ではないのだ。やはり、食事には飲み物が欲しい。
仕方がない。泉の確認を兼ねて、先に水を取りに行くことにした。泉まで約20分、往復で40分。朝の散歩には少し長いが、やむを得ない。今日からは翌日の分まで余裕を持って水を用意することにしよう。
しかし、泉に行くにしても一人で勝手に行くのはまずいだろう。部屋を出て、リリティアさんが使っている部屋に目を向けた。部屋の扉は閉まっている。
違和感を感じつつもノックをしてみたが、返事がなかった。二頭身人形のような姿をしているとはいえ、リリティアさんは女性である。寝ている部屋に押し入るわけにもいかないだろう。
そもそも、どうやって扉を閉めたのだろう。昨夜、俺が扉を開けたのだ。彼女が部屋に入った後、出られなくならないようにと少しだけ開けておいたはずだ。手のひらサイズの体で扉を閉められるのだろうか。
不思議に思いながら一階に降りると、リリティアさんはリビングにいた。どうやら起きていたようだ。
「おはようございます。リリティアさん」
「ああ、おはよう」
「俺は今から泉に様子を見に行ってきます。ついでに、水を汲んできます」
「そうか。朝早くから仕事とは熱心だな。真面目なのはいいことだ」
「あ、まあどちらかというと、水が全く無いのでそちらがメインなのですが」
ついでなのは、泉の様子の確認だった。仕事よりも、水の確保こそが重要だ。
「水を汲むのならタルを作っていくといい。革袋では汲める量が少ないだろう。この辺りの木を1、2本切れば足りるはずだ」
「ありがとうございます。早速作ってきますね」
道具一式は、革袋にしまって玄関に置いてある。その革袋を持って家を出た。
燃えろノコギリとバールのようなものを使った木の伐採は、昨日20回近くやった作業だ。もう手慣れたもので、10分とかからずに2本の木を木材に切り分けた。
次は神の門を使用して木材をタルに変えてもらう魔法陣作りだ。タルには様々な種類があったため、少し悩んだ。結局、「ベルト付き木製タル 中」というものにした。背負うためのベルトがついていて、サイズが中型ということだ。大きさがわからないからとりあえず中型にしてみた。
早速魔法陣を作ると、あっという間にタルが出来上がった。魔法陣の光は小屋の時よりも眩しくなかった。大きさによって、光の強さも異なるのだろうか。
肝心のタルのサイズは、これが悪くないサイズだった。直径50cmよりも少し小さいくらいで、高さも1m弱だ。少し大きい気もするが、そこは汲む量を調節して対応しよう。大は小を兼ねるというし、小さくて十分な水を持ってこれないよりかはずっといいだろう。もし小さすぎたり大きすぎたりしたら、もう一つ作り直しだった。手間が省けてよかった。
さて、タルも用意できたことだし出発しよう。
そう思ったらリリティアさんがやってきた。
「タルも作れたようだな。泉に行くのなら私も同行しよう」
「お願いします。では、早速行きましょうか」
二日目の朝、まだ朝日はその姿を現したばかりだ。鬱蒼とした森の中を、俺はタルを背負うと水を求めて歩き出した。
19.5.4 三箇所の「樽」表記を「タル」に修正。