プロローグ2
その日も部屋で日本酒を飲みながらテレビを点けていた。
時間は午後の三時を過ぎていただろうか。突然強烈な眠気に襲われた。
それは酒に酔って寝落ちした時とは違う、人を強制的に眠らせるような感覚だった。
気がつくと、周囲には不思議な光景が広がっていた。
天井も壁を覆うクリーム色のクロスも、天井にできた漏水の跡も見当たらない。安物の白いカーペットの上で寝ていたはずだが、カーペットもその下の木目調のタイルも見当たらなかった。
そこはとても開放的で、澄み切った美しい場所だった。
見たことのない広く澄み切った青空。地平線の向こうまで続く芝生が、まるで機械で整地されたかのように平坦な大地を覆っている。
さっきまでの俺は、築40年の狭いワンルームでワンカップを飲んでいたはずだ。小さなちゃぶ台の上にワンカップとつまみのししゃもやスナック菓子を並べ、観るともなくテレビを眺めていた。
だから、最初は夢の中だと思った。
現実とはかけ離れた神秘的な世界。
こんな場所が現実にあればいいのに、こんな場所で生きていければいいのにと感じながら、こんな何もない所では電気もガスも水道もインターネットもないだろうから暮らしてはいけないじゃないかとも思った。おまけに仕事もないだろう。
仕事がないのは現実でも同じか・・・
そんな益体もないことを考えていると、後ろから声をかけられた。
「目が覚めましたか?」
不意をつかれたために驚いた。さっき周囲を見渡した時には誰もいなかったはずだ。
「ふふ、驚かせてしまったようですね。これくらいは造作もありません、神様ですから」
振り向くとそこには美人がいた。金色の髪は腰まで伸び、瞳はエメラルドを思わせる輝きを放っている。ほおをなでる前髪を細い指先で払いながら、優しく微笑んでいた。その神々しいまでの美しさに、文字通り目を奪われてしまった。
「私はアイリアと申します。突然お呼び出しして申し訳ありません。少し困った事態が起こっておりまして、あなたに協力していただきたいのです。森野守さん、話を聞いていただけますか?」
これが女神アイリアとの出会いだった。
19.2.17 一部修正。「振り向くとそこには美女がいた」→「振り向くとそこには美人がいた」