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森林開拓日誌  作者: tanuki
森を守るお仕事
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一日目・食料を採集しよう⑮

 日が傾き、薄暗さが増した森の中を歩き家まで帰った。道中、リリティアさんと色々な話をした。今日使った道具の評価(口コミサイトのように評価や紹介をする仕組みがあるらしい)や俺自身が使った際の使用感、森の近くにある町のこと、そしてアイリアさんのこと。アイリアさんについては、全体的に悪口というか辛辣な評価だった。いい加減だ、やる気がない、もっとしっかりしてほしい、私を頼りすぎだ、などなどなど。しかし、その遠慮のない悪しざまな言い方から、かえってアイリアさんのことを好意的に思っていることが伝わってきた。

 そうして家に着いた。リリティアさんは、「後は日報を書くだけでいい」とだけ言い残してどこかへ行ってしまった。どうしたんだろうと思っていたら戻ってきたり、二階に上がったりとせわしなく飛び回っていた。

 そんなリリティアさんを見ながらリビングのソファに座った。一応、日報の内容をぼんやりと考えながらだ。しかし、日報は明日の朝までに仕上がっていればいいとのことなので、それほど急ぐ必要はないだろう。今回からは、日々起こったことを簡単に書けばいい、とのことなので簡単だし。

 しばらく飛び回っていたが、リリティアさんが座っている俺の目の前に来た。そして、慌てた様子で俺にこう尋ねた。

 「おい、この家には風呂はないのか?」

 風呂があるかどうか、帰ったら俺も確認しようと思っていたっけ。

 「そういえば昨日、アイリアさんに家の中を案内してもらった時には、風呂の場所は説明されなかったですね」

 「む、そうか・・・やはりないのだな・・・期待していたのだが・・・」

 先ほどバタバタと飛び回っていたのは、風呂を探してのことだったようだ。

 「お風呂、好きなんですか?」

 残念そうにしているリリティアさんにそう尋ねた。

 「ああ、もちろんだ。風呂はいい。身を清潔に保ち、心を落ち着かせる効果がある。それに・・・やはりいつも身ぎれいにしていたいからな」

 手のひらサイズの二頭身フォルムの先輩の、女の子らしい一面を見た気がした。

 「そういえば、こちらの世界にはお風呂はあるんですか?」

 ついでに聞いてみた。近隣の町の話を帰り道で聞いていたので、その生活の様子は気になっていた。

 「この辺りに湯に浸かるという風習はないな。そもそも生活に使える水の量がそれほど多くないのでな、風呂にまでは回せないということもあるのだろう。湯を沸かすための薪は、今は作りたい放題なのだがな。ところで、お前の世界の風呂はどういうものなんだ?」

 初めて日本について聞かれた気がする。

 「日本・・・うちの国の名前です。日本では一般家庭でもお風呂はほぼありますね。あと、スーパー銭湯や温泉という大衆浴場がありますね」

 「家に風呂があるのは素晴らしいな。しかし、風呂があるのにわざわざ大衆浴場に行く必要があるのか?」

 「スーパー銭湯には色々なお風呂があって、それを楽しむために行くんですよ。お風呂以外にも色々な設備や施設が併設されていて遊べるようになってるところも多いんです」

 「風呂が娯楽施設になっているということか。素晴らしい国だなお前の国は。私もアイリアに付いていかなければ、それを楽しめたかもしれないな」

 お風呂の話になると途端にテンションの高くなる先輩だった。しかし、一つ気になることを言った。

 「アイリアさんに付いていかなければ、っていうのはどういうことですか?」

 そう尋ねると、うっかり口を滑らせた、というような顔をした。

 「ああ、私もアイリアも元々別の神の下についていたんだ。今お前の住んでいた区域を担当している神がその方なんだ。アイリアの研修が終わってこちらに赴任する際に、一緒に異動になったのが私ということだ。あのまま残っていれば、お前の住んでいた区域にその方と一緒に赴任していただろうな」

 神々にも研修があるらしい。その神のことや、異動については気になった。

 「まあその頃の話はもういいだろう。水に関して言えば、泉が近くにあるここはかなり恵まれた環境だ。元に戻りさえすれば、安定して十分な量の水が得られるはずだ。それこそ、毎日湯を沸かせるくらいにな」

 強引に話を引き戻された。その頃の話はあまりしたくないのだろうか。余計なことは聞かないでおこう。

 「明日の朝、泉に水を取りに行ってきます。お風呂に入れるほどは難しいでしょうけど」

 飲み水やその他の生活用水も確保することを考えると、何往復しなければならないのかわからない。さすがにお風呂は後回しだ。

 「仕方ないな。今日のところは先ほど言ったとおり、後で日報を提出したら終わりでいい。やり方はわかるか?」

 「はい、通信室で文章を書いて送信するんでしたね。おそらく大丈夫だと思います」

 これは昨日、説明を受けたことだ。日本のパソコンと、似たようなものを用意しておいてくれてあった。それをメール送信と同じように使うと、アイリアさんへ日報が届くらしい。

 「そうか。わからなかったら聞きに来てくれ。それと、二階の一部屋を私の部屋にさせてもらうぞ」

 そういうと、二階へと飛び去ってしまった。

 この後、特にわからないところもなく日報を書き終え、異世界での初仕事は終りを迎えた。

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