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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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二十五日目・探し物②

 「そういうものはうちでは扱ってねえな。うちは基本的には卸問屋からしか買わねえからな。悪いが他を当たってくれ」

 「そうですか。すいません、ありがとうございました」

 「おう、今日は鉄鉱石はいらねえのか?」

 「ええ。以前十分に仕入れましたから。また必要になったらお願いします」

 「こちらこそよろしく頼むわ。それじゃあな。探し物、見つかるといいな」

 一礼して、鉱物商の露店を離れた。関係がありそうな人で、唯一俺が知ってるのがあの鉱物商だった。そのアテが外れたので、この広い町を手がかり無しで探さなければならない。そもそも、まだあるのかもわからないものだ。

 とりあえず、次は商業街区へと向かう。適当に歩き回って、可能性がありそうな店を当たってみるしかないだろう。

 リリティアさんとお父さんは、そろそろ小屋へ戻る頃だろうか。途中で勝手に抜けてきちゃったから、リリティアさんには後で怒られるだろうな。お父さんが町へ行くことを、俺が後押しした。それなのに用事を思い出したと言って、一人別行動を取ったのだ。それは当然、怒られるだろうな。それを有耶無耶にするためにも、目的物を見つけ出さないといけないな。

 商業街区を適当に探索する。いくつかそれらしい店を訪ねてみたが、お目当てのものは見つからなかった。それでも、まだ探すしかない。踊っている暇なんてないのだ。このネタに気づいてくれた人は、今までいなかったけれど。

 「おにーさん、おにーさーん」

 後ろから声がしたので振り返ると、そこには小豆色の髪の少女がいた。以前服を購入した店の店員だ。

 「やっぱりあの時のおにーさんだ。見たことある服だから、もしかしてと思って声をかけてみたの」

 「やあ、久しぶり。すごい量だね。仕入れ中?」

 彼女は両手に小さめの藤籠を持ち、背中にも大きな藤籠を背負っている。

 「そうなの。古着と新品と生地をまとめて買っちゃったから、もう重くて大変」

 「大変そうだね。じゃあ、もう仕入れはおしまい?」

 見るとどの藤籠もいっぱいまで入っている。これ以上は買っても入らないだろう。

 「うん。後はこれを店まで持ち帰るだけ。おにーさんは何してるの?」

 「探し物をしてるんだけど、なかなか見つからなくってね。ちょっと困ってるとこ」

 「そーなの?何を探してるの?」

 探してるものを、かいつまんで説明する。それを聞いて少し思案した後に服屋の店員が言った。

 「そういうことなら、ひょっとしたら質屋にあるかもね。この辺にも何件かあるから、行ってみたらいいんじゃないかな?案内するよ」

 そういうと、返事を聞く前にさっさと歩き出した。案内してくれるようなので、慌てて後を追った。藤籠を受け取って質屋を目指す。

 服屋の店員の案内で、質屋巡りをした。商業街区にある質屋を全て回ったが、探しているものはみつからなかった。似た物はあったのだが、色々と話を聞いてみると別物だということがわかった。

 「全部探してもないんだから、この辺の質屋にはないみたいだね」

 「そうみたいだね。残念だけど、諦めるしかないのかな。あちこち案内してくれてありがとう」

 「いや、まだ諦めるのは早いんじゃないかな。確か、うちの近くに1軒あるから、そこにも行ってみようよ」

 店員に促されて、洋服屋近くの質屋に向かうことになった。正直、俺には他に可能性がありそうな場所が思い浮かばない。

 「そういえばおにーさん知ってる?ドラ息子の話」

 「ドラ息子?」

 「あれ?知らない?だったらいいんだ。忘れて?」

 少し慌てた様子だ。話したらマズいようなことだったんだろうか。

 「えっと、あの領主の?」

 「あ、やっぱり知ってた?」

 声を抑えて言ってみると、彼女は安心したようにそう言った。権力者の身内の話、それもおそらく良くない内容なんだろう。言う相手を選んで当然だ。

 「最近この町を巡回してるみたいで・・・また女漁りをしてるんじゃないかって言われてるんだよ。怖いよね」

 「女漁り?」

 「それは知らないんだ?」

 「うん。彼の評判が悪いってことは聞いてるんだけどね。具体的な言動までは知らなかったんだ」

 すると彼女は、今までよりも更に声を落として説明してくれた。

 「領主様の侍女や妾となる女性を探して、町中見回ってるの」

 「そうなんだ。それで、それだけってわけじゃないんだね」

 侍女の雇用や妾になることを打診するだけだったら、それほど問題にはならないだろう。権力者に仕えたり妾になること自体は、決して悪いことではないはずだ。

 「連れて行かれた女性のほとんどが、消息を絶ってしまってるの。領主様の侍女になったら、家族に手紙の一つも出せないのかってみんな思ってる。本当に領主様のお屋敷に行っているのか。ドラ息子が手篭めにしているって噂もあるくらい」

 「それはおかしいね。家族との連絡を許さないなんて、やましいことをしている可能性が高いね」

 外部との隔絶させることは、犯罪手口の一つだ。孤立させて正常な判断力を奪い、支配下に置く。最悪の場合、生きていない可能性すらある。仮に屋敷に住んでるとしても、まともに人権が守られているような状態ではないだろう。

 「だから、ドラ息子が来たとわかると、女性は家に閉じこもる人が多いの。うちとしても客足が遠のくから、さっさとどっか行ってもらいたいわ」

 「そうなんだ。じゃあ君も気をつけないとね。仕事も大事だけど、放り出してでも隠れてた方がいいと思うよ」

 「美人を選んで連れて行ってるみたいだから、私は大丈夫だよー」

 「いや、十分可愛いと思うけど・・・ホントに気をつけてよ?」

 確かに、目を引く美人というわけではないけれど、棘のない愛らしい顔をしている。性格も明るいから、好意を抱く男は多いんじゃないかと思う。

 「おにーさん上手だねー。・・・あ、そろそろ着くよ」

 俺の注意を、あまり本気にはしてもらえなかったようだ。質屋に着くまでにもう一度念を押すと、一応理解はしてくれた。

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