二十五日目・探し物①
パッパラパパパパラパパッパラッパパー。
起床時間を知らせる音楽で目を覚ます。ベッドから起き上がって、伸びをする。カーテンを開けて日光を浴びながら、軽くストレッチをしてみる。
特に異常はなかった。特別痛みがある箇所もなく、倦怠感などもない。結構無茶をしたし大怪我もした。毒まで食らっているはずだが、まる一日寝ていただけでほぼ全回復だ。
「これは、みんなのお陰だろうな」
駆けつけてくれた医者の治療とアイリアさんの加護、それにユナさんの癒やしの水があったからこそ、たった一日で治ったんだろうと思う。そもそも加護の力がなかったら死んでただろうしな。もっとも、毒耐性があると聞いてなかったら、あんな無茶はしなかっただろうけど。
一階に降りると、キッチンにリリティアさんがいた。朝食の準備をしてくれている。
「おはようございます。今日も朝食作ってもらっちゃって、すいません」
「おはよう。体調はどうだ?」
「自分でも驚いたんですが、全く問題ないです。万全ですね」
「そうか、それはよかった。だが、今日くらいは、まだあまり無理をしないようにな」
それから朝食の準備を手伝い、一緒に朝食を食べた。干し肉は使わず、パン粥と茹でた野菜が中心のメニューだった。俺が病み上がりだからか、消化に良いものを作ってくれた。
朝食を持って、リベルさんたち父娘のところへ向かう。もう薬は持っていかない。昨日から薬を飲まずに、様子を見ているらしい。特効薬の効果が出始めているので、その効果を確認したいからだそうだ。飲み合わせ自体は問題ないらしい。事前にそこまで調べてマニュアルに記載してくれてある。
二人がいる小屋に着いた。リリティアさんに扉を開けてもらい、中へと入る。
「おはようございます。お加減はどうですか?」
挨拶しながら、二人分の朝食をテーブルに置く。そして、父娘の状態を確認する。お父さんの方は昨日とそれほど変わりはないようだった。朝食のお礼を言う声の調子も、かすれや弱々しさは感じない。これなら問題はなさそうだな。
続いてリベルさんだ。彼女もベッドから起き上がって、こちらに頭を下げた。しばらく起きているところを見ていなかったので、少し驚いた。思わずジッと見ていると、恥ずかしそうに俯いた。
「おい、あまりジロジロと見るんじゃない」
リリティアさんに小声で窘められた。見つめてしまったのは、決してやましい気持ちからではない。しかし、人の顔をジロジロと見るのは失礼なことだった。しかし、体調を判断するためには必要なことだったと思う。必要なことをやっただけで、可愛い女の子の寝起き顔を見られて嬉しいだとか、そういう気持ちではなかった。口には出さないが、心の中でリリティアさんにそう弁明した。
父娘の食事中、俺は水差しなどをまとめる。小屋に上下水道が引かれているわけではないので、父娘の食器類は女神の家で洗う必要がある。今までは殺菌消毒もしていたが、これだけ回復してきたら必要ないかもしれない。ちなみに、衣類はリリティアさんの役目だ。さすがにリベルさんが着たものを、俺が触るわけにはいかない。
食事が終わると、お父さんから一つお願いをされた。
「町へ戻りたいのですが、よろしいでしょうか。仕事の関係上、あまり休み続けるわけにもいかないのです。それに、店の方も気になりますし・・・」
お父さんは商人だったな。首都や他国まで買い付けに行き、それをシャールの町やその近くで売りさばいているらしい。お父さんには直接言ってはいないが、俺はシャールの町では行商人ということにしている。本物と会話していると、それが嘘だとその内にバレてしまうかもしれないな。まあ、この父娘にはバレたところで問題ないだろうけど。
「できれば完全に問題ないと判断できるまでは、ここに留まっていて欲しいのだがな」
お父さんの頼みに、リリティアさんは難色を示した。感染症対策で隔離させてもらっている以上、その判断は当然だろう。俺たちの現在の最重要課題は、流行病を拡大させずに終結させることだ。
「しかし、卸す予定の商品が溜まっているのです。取引先を待たせている状態ですし、金銭的にも早く商売を再開しないと・・・具体的に、どれくらいで戻れますか?」
商人としては気になって当然のことだろう。病気というやむを得ない理由とはいえ、自分の都合で客を待たせているのだ。早く戻りたいだろうし、少なくとも見通しくらいは知りたいはずだ。
リリティアさんとお父さん、どちらの言い分にも理由がある。どちらか一方だけの肩を持つわけにもいかない。こういう時はお互いが納得できる折衷案が必要だ。
「リリティアさん、別に戻るだけなら問題ないんじゃないでしょうか。ウィルスがないか確認して、マスクもしてもらえば感染は防げるでしょう。人と会わず行く場所も限定すれば、よほど問題はないのでは?」
ウィルスを検出する器具はあるし、発見したらその場で殺菌することもできる。あまり移動しなければ、それほど問題はないだろう。お父さんの方も取引先に事情を説明したいだろうが、その辺は我慢してもらう。
「そうだな。誰とも面会せず、2,3箇所だけごく短時間なら今からでもいいだろう。それでいいか?」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
こうして、3人でシャールの町へと行くことになった。
更新速度が遅くて申し訳ありません。資格試験が2つの意味で終わったので、これからスピードアップしていきたいと思います