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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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二十四日目・一夜明けて②

 再度の仮眠から目を覚ましたのは、夕方になってからだった。カーテンが開いたままの窓から、夕焼けに染まった空が見える。4,5時間は眠っていたようだ。

 服を着てから、部屋を出る。治療を受ける際に脱がされていたらしく、上は何も着けずパンツ一丁だった。布団を掛けているとはいえ、パンイチでリリティアさんの隣りに寝ていたことになる。改めて思い返すと、少し恥ずかしい。手足などの噛まれた部分には包帯が巻いてあることが、却っていかがわしさを醸し出しているし。

 通信室を確認してから、一階に降りる。一階もあちこち確認したが、リリティアさんはいなかった。起きていたら俺の部屋に来ているだろうから、まだ寝ているのだろう。徹夜で疲れているだろうから、ぐっすり眠っていてもらいたい。

 リリティアさんが眠っているのなら、一人でリベルさんたちの容態の確認に行こう。特効薬を飲んでどんな状態になっているのか、直接会って話を聞いておきたい。お互いに健康体とは言えないので、軽く挨拶するだけに留めておこう。

 リベルさんたちの様子を見てくる旨の書き置きを、リビングに残して家を出る。家の周囲も軽く見回ってみたが、リリティアさんがいる気配はなかった。

 旧式の転移装置を使って、リベルさんたちがいる小屋へと向かう。中へ入ると、二人ともベッドで寝ていた。お父さんが起き上がろうとしたので、そのまま寝ていてもらうように伝えた。病人を不必要に起き上がらせる気はない。そもそも、それほど長話をするつもりではないのだ。

 「あなたが命懸けで薬草を取ってきてくださったと、お連れの方から聞きました。そのおかげで、我々父娘は助かります。この感謝の気持ち、どのようにして伝えればいいか・・・」

 寝ていてもらうつもりだったのだが、ベッドから降りて床に膝をついて頭を下げられた。まるで土下座のようで、面食らってしまった。ずっと年上の中年男性から土下座されるのは困る。

 「顔を上げてください。俺は俺の仕事をしただけですから。それに、俺だけの力で特効薬が完成したわけではないですし」

 アイリアさんやその他の神々の協力がなければ、ムクコマの発見は不可能だった。それに、ユナさんと兄妹子鹿がいなければ、転移装置が作れず探索すること自体が不可能だった。兄鹿からは更に、角の提供もしてもらっている。俺とリリティアさんだけでは、特効薬を作るのは不可能だっただろう。そう考えるとやはり俺は、土下座で感謝を示されるほどのことはしていない。

 お父さんにベッドで寝てもらい、状態を尋ねた。概ねリリティアさんから聞いた話の通りだったが、直接本人の口から聞けて安心した。本人たちの顔色を直接確認できたし、声も昨日よりは張りがあるような気がする。

 眠っているリベルさんも、心なしか血色が良くなったように感じた。これだけ隣で話をしていても起きないのだから、体調自体はまだまだ回復していないのだろうけれど。女性の寝顔を、勝手に凝視するのは良くないだろう。気持ち良さそうに眠っていることだけ確認して、あまりそちらを見ないようにする。

 可愛らしい寝顔をもう少し見ていたいという思いを押しとどめていると、お父さんから俺の怪我の具合を聞かれた。腕の痺れや吐き気などの症状を、簡単に説明した。あまり詳しい話をして、うっかり医者の診断まで喋ってしまわないように気をつける。この世界とは比較にならないほどの、高度な医療を受けたのだ。治療法などから違和感を持たれていはいけない。キイロシビレザルに噛まれたことに関しても、言及は避けておいた。その毒性について知っていた場合、立って歩けている状況に不信感を持たれてしまうからだ。

 結局怪我の具合に関しては、肝心な部分はぼかした当たり障りのない説明になった。細かい質問をされてボロが出る前に帰ろう。回復するまで安静にするようお願いして、小屋を出る。

 転移装置の方へと歩いていると、お父さんが小屋から出てきた。

 「あの、本当にありがとうございました」

 そう言って、深々とお辞儀をした。

 「どういたしまして。でも、そんなことを言いに、わざわざ出てこなくてもいいですよ。先ほども言ったように、これも俺の仕事ですから」

 「いえ、治療だけではなく、お金のこともです」

 ・・・そっちのことか。リベルさんから話を聞いたのだろう。

 「娘が使ってしまった分は、私が必ずお支払いします。ですが、少しお時間をいただけませんか」

 「その話でしたら、娘さんと既に話がついているので問題ありません。二人とも、お金のことは気にせず、体を治すことだけ考えてください」

 「ありがとうございます。・・・ですが私の治療費として使ったお金です。娘ではなく、私に請求していただけませんか?」

 父娘のどちらに支払ってもらっても、大きな違いはない。だから承諾してしまっても問題ないだろうか。そう考えかけたが、思い直す。

 「俺はあくまで、猫目石に販売を委託しました。リベルさんでもお父さんでもありません。だから、売上に対する支払いは、猫目石からいただく必要があります」

 ここはきちんと明確にしておかないといけない。契約の相手方は猫目石であって、請求先は個人じゃない。猫目石側がどうやってお金を用意するかは、俺が関与するべき話ではないけれど。

 「娘には本当に苦労をかけてきました。若くして店を継ぐことになり、その後なんとか軌道に乗ってきた矢先に私が倒れて・・・私が重病に罹ったのはこれで2回目です。その上今回は、娘まで感染させてしまった」

 「以前にも病気されてたんですか。それは大変でしたね」

 「その時に貯金をほとんど使い尽くしてしまって・・・今回は薬代が用意できず、妻の形見すら手放すことになりました。店に飾っていた、娘にとっても大切な猫目石だったのですが・・・。それでも足りず、あなたにまでご迷惑をおかけすることに・・・」

 店には、本来宝石があったってリリティアさんも言っていたな。治療費を捻出するために、宝石商か質屋にでも売り払ったんだろう。

 「だから、娘にはこれ以上、苦労をかけさせたくないんです」

 涙ながらに話すお父さんに対して、心配しなくて大丈夫だからと、小屋で寝るように促した。

 猫目石という店名の由来になったのが、さっき言っていた宝石だったっけ。一体、どんな宝石だったんだろうか。

少々忙しく、更新が滞っております。楽しみにして下さっている方々がいましたら、申し訳ありません。もう少しペースをあげていけるように頑張ります。

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