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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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二十四日目・一夜明けて①

 再び目を覚ましたのは、正午を過ぎてからだった。吐き気はないが、噛まれた跡が焼けるように熱い。それに、少々気だるさがある。

 隣にはリリティアさんがいた。膝に厚い本を置きながら、顔は完全に下を向いていた。読書に熱中しているのかと思ったが、よく見たら目をつむっていた。うつらうつらとしているようだ。ムクコマ探索から戻ったらすぐに特効薬を作り、その後はずっと俺の看病を続けてくれていたのだ。眠たくなってきても仕方がないだろう。俺のことは放っておいて、自分のベッドで眠ってしまっても誰も文句を言わないだろう。しかし、それでも寝ずに付きっきりでいてくれる。その優しさが嬉しかった。

 「ん?目を覚ましたのか。いや、私が眠ってしまっていたのか?」

 リリティアさんが、俺が起きたことに気づいたようだ。少し慌てている様子が可愛い。

 「いえ、今起きたばかりですよ。ご迷惑をおかけしました」

 「いや、大したことはしていない。名誉の負傷だからな、堂々と寝ていて構わないぞ」

 自分の力を過信した結果死にかけたというだけではあるが、褒められているようなのでそれは黙っておこう。俺だってリリティアさんのように、猿をあしらうことができると思っていたんだ。しかし、現実はそううまくいかず、結構危険な状況だった。リリティアさんが発見してくれてなかったら、死んでいたかもしれない。今考えると背筋が凍る。

 俺が寝ている間に起こったことを、リリティアさんに確認した。

 まず、狩りにでかけていた狼たちは、昨夜無事に全頭帰還したようだ。大型の獲物は獲れなかったらしいが、身籠っているメスたちが食べる分くらいは狩れたとのことだ。

 次にリベルさんたちだが、昨夜特効薬を飲んだ効果が表れているようだ。特にお父さんは、熱も下がって体調回復に向かっているようだ。ただ、咳がまだ続いているので、咳止めだけは今日も飲んでもらっているらしい。リベルさんも、熱が下がって咳も減っているようだ。しかし、体調は戻っていないらしく、服用後もほとんどベッドで寝ているらしい。過労や心労も倒れた一因だっただろうから、病気が治ってすぐ元気になるというわけにはいかないのだろう。彼女の体調が戻るのは、もう少し時間がかかるかもしれない。

 最後は上、つまり神様たちについてだ。アイリアさんには、俺を医者に診せた後に、昨日起こったことを報告書として送ったようだ。アイリアさんには医者からも所見が送られるらしく、患者である俺よりもアイリアさんの方が、詳しい診察結果を知ることができるらしい。それはちょっと納得がいかないが、仕方がないと諦める。自己負担無しで診察してもらっている以上、文句を言うべきではない。

 他の神様たちだが、みんな特効薬の完成を喜んでくれているらしい。この問題が無事に収束することを、他の神様たちも願ってくれていたのだ。血清の用意や医者をこの世界に派遣する手続きがスムーズだったのは、彼らの事前準備のお陰らしい。ムクコマ捜索に協力するために、複数の精霊を南の山に派遣する計画もあったらしい。一度も会ったことがないが、協力してくれた神様や精霊たちには感謝だ。

 「一通り起こったことは説明したが、何か他に聞きたいことはあるか?」

 リリティアさんは2つのグラスに水を注いで、その内の1つを俺に手渡した。礼を言ってから、一口飲んだ。普通の水ではなく、癒やしの水だった。ゆっくりと、もう一口だけ口にする。

 「リリティアさん、寝てないんじゃないですか?特効薬を作って、医者を呼んで、その後はずっと俺を看病してくれてたわけですから」

 「まあ確かに寝てはいないが、そんなことは大したことではない。お前の怪我に比べれば、尚更な」

 「ただ寝ていただけの俺の方が、よっぽど何もしてませんよ」

 それも、ただ寝てないだけじゃなくて、猿たちと戦闘をして、その後夜通し仕事や看病をし続けての徹夜だ。大変じゃないはずがない。講義のレポートで徹夜したことやオールでカラオケしたことなら俺にもあるが、疲労度合いは全く違うだろう。

 「先程も言ったが、お前は名誉の負傷だ。早期解決の功労者だと、上ではみなお前のことを褒めていたぞ」

 「採取を焦って、無謀なことをしただけですけどね」

 「それはまあ、そうだな。随分と思い切ったことをしてくれたものだ。結果的にうまくいったから良かったものの、本当に危険な賭けだったのは間違いない。次からはもっと熟慮するようにな」

 「反省してます」

 二度とするなと言わないのは、危険を冒さなければ時もあるからなのだろう。森の中には、他にも危険な生き物はいるだろう。今回のキイロシビレザル以上に危険度の高い生物も、もしかしたら存在するかもしれない。いざという時のために、力をつけないといけないな。いつまでもリリティアさん頼みというのは、良くないというか、俺自身が嫌だ。

 「大したことではないとは言ったが、やはり少し眠いな」

 あくびを噛み殺しながら、リリティアさんが言った。無理せずきちんと睡眠を取ってほしい。

 「俺ももう少し眠ろうかと思うんで、リリティアさんも自分の部屋で寝てきた方がいいですよ」

 俺が起きている限り、自分一人だけ眠ったりはしないだろう。

 「そうだな。付きっきりで看病してやると言っておいてなんだが、少し仮眠を取らせてもらおう。私が寝ている間に何かあったら、その時は起こしてくれ」

 それは部屋に入ってもいいということだろうか。さすがにそういう意味ではないだろうが、少しドキッとする一言だった。

 「それじゃ、おやすみ」

 「あ、リリティアさん、最後に1つだけ」

 部屋の扉を開けたリリティアさんを、立ち上がって呼び止める。

 「リベルさんと仲直り、しないんですか?」

 「・・・余計なことを考えずに、大人しく寝ていろ」

 それだけ言い残して、リリティアさんは部屋から出ていった。

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