一日目・食料を採集しよう⑭
「どうした?驚かないのか?」
小屋をただ眺めているだけの俺を見て、リリティアさんは口をとがらせた。
「いえ、十分にびっくりしてますよ」
驚きのあまり言葉が出なかったのだ。神の門という大仰しい名前に一抹の不安を覚えながらも、リリティアさんが熱弁するほどだからとの思いもあった。期待と不安が入り交じる中、小屋が地面が生えてくるという光景に目を奪われてしまった。
我に返って、周囲を周り外観を確認する。
「結構しっかりした小屋ですね」
できる過程にも驚いたが、小屋の立派さはそれ以上だった。5m四方の小屋には引き戸があり、小窓が二つついている。屋根は木製の三角屋根、壁は土壁のようだ。
「壁材や窓はどうしたんだろう・・・」
ふいに思った疑問に対して、リリティアさんが答えてくれた。
「主要な材料以外は工場に予め準備してあって、それを利用して建てるらしい」
「なるほど。一瞬で建てる技術も凄いですけど、どうやって工場を運営してるんだろう。お金も何も払ってないのに・・・あ、月額使用料を払って使用してるんですか?」
工場で組み立てているということは、人件費や設備代などの費用がかかっているはずだ。魔法陣を作ればすぐにできるというのならば、24時間工場が稼動しているということになる。この道具だけはリリティアさんが製品と言っていたから、売り物なのだろうけれど。
「いや、神の門自体はそれほど高いものではないし使用料もいらないんだ。それもこの製品の凄いところの一つだな。なぜお金がかからないかと言うと、材料に含まれるマナを吸収するんだ。そのマナは、企業が持つ発電所やその他の製品に利用される。つまり、神の門はマナを集めるための仕組みの一部だな」
そういえば、マナを食事以外で吸収することは困難だとリリティアさんが言っていたな。神の門を作っている企業は、それを可能にする特殊な技術を持っているということなのだろう。
「まあ神の門の仕組みを作り運用できるのも、総エネが様々な事業を展開している巨大グループだからだろうな」
「総エネ・・・それが神の門を作っている企業の名前なんですね。それはリリティアさんたちとは別の組織なんですか?アイリアさんと契約しておいて言うのもなんですが、あまり組織図がわかっていないんです」
「ふむ、我々の組織図については追々詳しく話そう。知らなくても森の守護者としての実務には問題ないし、今日は説明することが多かったからな。だから総エネについてだけ軽く説明しよう。総合エネルギー商事という名の企業で、数百のグループ企業がある。神の門を作っているのはその中の一つだな。我々とは無関係だ」
「なるほど、大きなグループ企業なんですね。神様たちの組織については今後改めてお聞きします」
結局、組織のことも総エネという企業との関係もわからなかった。そんなことは、現場の労働者には覚える必要がないということなのだろう。実際、森での生活において必要な知識や技術のほうがよほど現状では重要だろう。
「まあ、追々な。覚えないといけないことはまだまだあるし、まずは森を元に戻すことが最優先だからな。そのためにも、この神の門は様々な用途に使えるだろう。材料さえあれば、色々なものを作ることができる。必要なものは作り出せばいい、ということだ」
さあ、今度こそ上がろう。そう言いながら、リリティアさんはいつもどおり一人で先に飛んでいってしまった。