二十三日目・ムクコマ③
意気揚々と再開したムクコマ探索だったが、今のところ発見には至っていない。山頂北側のポイントは全て確認したので、残るは東側だけだ。南側にはほとんど木々が生えていないので、東側になければまた1からやり直しだ。もう少し山を降ったところを捜索することになるだろうけれど、また明日以降になってしまう。リベルさんの容態を考えると、できれば今日中に発見したいところだ。
そんなことを考えながら、東側最初のポイントへ到着した。ここはかなり広い範囲に渡って、林が形成されている。端から端までが見渡せないくらいだ。捜索には時間がかかりそうだが、それだけに期待も大きい。
林の中に入り、捜索を開始する。草の根をかき分けながら、慎重に少しずつ探す。木々の根本に生えているという情報しかないので、とにかく虱潰しに確認するしかないのだ。
こうして探しながら林の奥へと進んでいく。林の中は薄暗かった。西側の林よりも薄暗く感じるが、これは時間的な理由もあるかもしれない。日が傾いているので、この辺りは既に山頂の陰に入ってしまっているのだろう。ただでさえ地味な花だ。暗くなると探しにくい。うっかり見落とさないように気をつけよう。
「おい、ちょっとこっち来てくれ」
少し離れたところを探していたリリティアさんから、突然声がかかった。
「この花、ムクコマじゃないか?」
リリティアさんが指差した先には、小さい白い花がひっそりと咲いていた。慌ててマニュアルを確認する。花の形はそっくりだ。根ごと摘み取り、つぶさに観察する。
「花の形も根や葉っぱの形状も、どれも同じですね。これがムクコマで、間違いないんじゃないですかね」
「やはりこれで間違いないよな。念の為、ムクコマのページだけ持ってきておいてよかった。間違いないとは思ったが、やはり画像で確認できた方が安心だ。だが、これでやっと一輪見つかったな」
「はい。何日も走って、山を登って、草花をかき分けて探して・・・ようやく見つかりました」
ムクコマの発見まで、何日もかかった。それだけに、実際に見つかるとやはり達成感が大きい。
「しかし、これで終わりじゃない。一輪だけでは全く足りないからな」
「あ、そうでしたね。確か、10本くらいいるんでしたっけ」
根や茎に必要な成分が含まれているが、二人分の特効薬と他に感染者が出た場合の予備を考えると一輪だけでは全く足りない。
「そうなると、また探し直さないといけませんね」
「ああ。だが、群生している可能性もあるというからな。ひょっとすると、近くにまだまだ咲いているかもしれない。この林の中をしっかり探そう」
見つけた場所を中心に、念入りに探していくとまた一輪見つかった。根こそぎ取っていってしまうのは、本来ならばよくないのだろう。しかし、状況が状況だ。見つけ次第全て摘んでしまおう。
そこから新たに三輪のムクコマが見つかった。残りは最低でも5つだ。そう思って顔をあげた。
「リリティアさん、あれ」
5メートルほど先に、白い花がいくつも咲いていた。5つ以上は優にある。これでムクコマ探索も終わりにできるだろう。
「む、上だ!」
鳴き声が聞こえてきて、遠くの木々の枝が揺れている。鳴き声も揺れている枝も、徐々に近づいてくる。
「一旦退くぞ!」
リリティアさんに促されて、鳴き声の反対方向へと逃げる。10メートルほど後ろに、何かが落下した。それも複数だ。
「キキッ!キキー!!」
「キャキャッ!」
それは黄色い猿だった。数頭の猿がこちらに走ってくるので、全速力で逃げる。リリティアさんが追いつかれそうになったが、左の突きで撃退していた。その後も追ってくる猿を、打撃で追い払っていく。
しばらくすると猿は追跡を諦めて、引き上げていった。俺とリリティアさんは安全を確認すると、一旦林を出た。
「あれが、狼たちの言ってた猿の群れですかね」
「おそらくそうだろうな。キイロシビレザルの群れか。厄介だな」
「でも、ムクコマがたくさん咲いてましたね。あれだけあれば、十分ですよ」
「そうだな。あの場所まで行って採取できれば、特効薬を作ることができるだろう」
ただ、それには先程の猿の群れが障害になっている。
「どっか行ってくれないですかね」
「無理だろうな。山頂付近の林を渡りながら、生活しているのだろう。あの場を離れるまで待つならば、少なくとも数日は待たないといけないだろうな」
さすがにそんなには待てない。また別の場所を探すことになるだろうか。あるとわかっているのに、それを諦めて別の場所を探すというのも辛いな。
「少しだけ休憩して、それからもう一度行ってみましょう。離れてたらそれでよし。ダメならその時考えましょう」
「キイロシビレザルの群れにわざわざ近づくのは危険だが・・・お前がそういうならそうしようか。だが、日没も迫っているからな。それほど時間はないぞ」
「わかってます。無理を言ってすみませんが、よろしくお願いします」
休憩しながら、何かいい案はないかと思案した。