二十三日目・ムクコマ①
朝起きると、すぐにシャールの町へと出掛けた。昨日狼たちに食材を提供してしまったため、自分たちの食料が足りなくなってしまったからだ。彼らにあげる分もあるから、今までより多めに購入することにしよう。
出発前に、体にウィルスが付着してないかチェックする。アイリアさんから渡されたこの道具のおかげで、感染源になってしまう心配はしなくていい。
朝市で食材を買い込む前に、ジュース屋のおばちゃんにコンポートとジャムを売却した。どちらも、単価は少し上がった。好評なためすぐに売り切れるから、少し値上げして販売するらしい。その分こちらへの支払いも多めにしてくれるそうだ。コンポートはリベルさんが人気があると言っていたが、それが実感できて嬉しい。それに狼たちが来て食費も増えるだろうから、単価アップは助かる。この世界の通貨を獲得するための、主力商品になってくれそうだ。
買い出しを済ませて女神の家へと戻る。そして、朝食を食べてから、リベルさんたちへ食事と薬を届ける。二人の様子を確認するために、今日はリリティアさんも一緒だ。
お父さんの様子は悪くない。特効薬がないと治らないと聞いているが、このまま治るんじゃないかと思うくらいだ。
しかし、一方でリベルさんの様子はあまり良くなさそうだ。起き上がって食事はしているが、全体的に動作が緩慢で辛そうにしている。お父さんに確認したところ、ご飯以外はほとんどベッドで寝ているそうだ。リベルさんの状態は、少し不安だ。
女神の家に戻って、今度は狼たちにご飯をあげる。シャールの町で購入した野菜がメインだ。パンも食べられると言っていたので、今回はパンも小さくちぎって入れる。肉に関しては、自力で調達してもらうことになっているので入れない。干し肉は塩分が多いことと、少々高価なためだ。自分たちで狩りをして、生肉を入手してもらう。
狩りについて、ボス狼と話をする。この辺りはヌシの縄張りだから、大型生物はほとんどいない。地図を見せながら、今わかっている縄張りの範囲を説明した。地図自体は読めなかったようだが、方向を指差しながら会話をしたことで、大まかには把握したようだ。早速、雄たちのグループが狩りに出発するというので、見送ってから家に戻った。
さて、準備をして、俺たちも出発しよう。リリティアさんと一緒に、昨日設置した転移装置まで転移する。昨日は狼たちと遭遇したことで、思ったよりも進むことができなかった。しかし、地図を確認する限りでは、頂上までそれほど距離はなさそうだ。それこそ、1,2時間で登頂できそうなくらいだ。
ここまで来ると、木々の密度はそれほど高くない。女神の家周辺に比べて随分と走りやすい。しかし、勾配がきつくなってきたため、思ったよりも時間がかかった。ある程度進むごとに地図上で現在地を確認するが、平地を進んでいた時よりもずっと移動距離が少なかった。
結局、頂上にたどり着いたのは、昼休憩目前だった。予想よりもずっと時間がかかっている。ムクコマ探索は午後からにして、山頂に転移装置を設置する。そして、女神の家に戻った。
昼休憩を取る前に、昼食の準備をする。自分たちとリベルさん父娘に加えて、狼たちの分も用意するため時間がかかる。
狼たちが住む小屋に昼食を持っていくと、半分以下しかいなかった。残っている狼に聞いたところ、他の狼たちは狩りに出ていったままとのことだ。日暮れまで狩りをして、それから帰ってくる予定らしい。ボスと攻撃的だった狼は、どちらも狩りに行っているらしい。あの2頭以外のことは、ちゃんと話してないしよくわかっていないんだよな。
ついでなので居残っている狼に、狩りについて聞いてみる。狩りはローテーションで行っているとのことで、残っているのは妊娠している雌と休憩組の雄だ。狩りを行えるものを3組に分けて、1組が休憩するという形を取っているのだそうだ。狼の狩りの仕組みは、人間の勤務体制以上にちゃんとしているのかもしれないな。一緒に生活するからには、個々の狼のことも知る努力はしよう。顔の区別がつくのは当分先になりそうだけど。そもそもその前に、子育てが終わって出ていってしまうかもしれないな。狼の顔の区別は難しいが、頑張ろう。
続いて、リベルさん父娘に食事と薬を届ける。朝から特に変わった様子はない。リベルさんの調子が悪そうなのも、変わらない。特効薬を投与できれば、良くなるだろうか。できるだけ急いだほうがいいかもしれない。南の山にムクコマがあればいいのだが。
女神の家に戻って、リリティアさんと共に昼食にする。そして、午後からのムクコマ探索に備えるため、仮眠を取る。
リリティアさんが降りてくるのと同時に目を覚まし、ソファから起き上がる。軽くストレッチをして体をほぐし、転移装置へと向かう。いよいよ本格的なムクコマ探索の開始だ。