表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
172/188

二十二日目・遭遇⑥

 「お待たせ。ここにある分は、全部食べていいからね」

 家の扉を開けると、狼たちは大人しく家の前で待っていた。数を数えてみるが、間違いなく全頭いるようだ。

 「食べられないものがあったら、ちゃんと残してね。俺たちが食べているものでも、君たちには食べられないかもしれないから。俺にはそれはわからないから、自分たちで判断してね」

 「オイシソウ」

 「ヒサシブリニ、タベラレル」

 「イイノ?コンナニ」

 「コノニンゲン、イイヤツ」

 今にもかぶりついて食べそうな様子だが、先を争って食べ始めるということはなかった。まずボス狼が食べ物の匂いを、一つひとつ慎重に嗅ぐ。本当に害がないのか、念入りに確認しているのだろう。

 「食べられそうにないものはない?大丈夫かな?」

 地球の犬が食べてはいけないものだって、全てを把握しているわけではない。ましてや異世界の狼の生態なんて、知るはずがない。彼ら自身で選んでもらうしかないし、それを強調しておかないと、毒を食べさせようとしたと誤解される可能性もある。

 「ガイノアルモノハ、ハイッテイナイヨウダ。ニンゲンヨ、アリガタクチョウダイスル」

 ボス狼がそう言ってから、用意した食材を食べ始めた。他の狼たちは、それをしばらく眺めていたが、続いてメスの狼たちも食事を始めた。他の狼たちは、じっと我慢をしている。

 ボス狼が食事を止め、メス狼たちも食べ終えた。他の狼たちは、やっと食べ始める。肉はほとんど残っていないようだが、狼たちはがっついて食べている。

 ボスが食べて、妊娠しているメスたちが食べる。残りの狼はそれが終わるまで待つ。それが彼らのルールなのだろう。お腹を空かせているのに、きちんと順番を守って食べているのは感心する。

 「さすがに足りないね。ちょっと待ってて」

 背負い籠を掴んで、ホージュの実が生っている果樹林へと転移する。素早くホージュの実を採取して、家の前へと戻る。

 「これも食べていいよ。切らずにそのままだけど」

 わざわざ芯を外して切り分けるのは、時間がもったいない。それに、狼たちは気にせず食べているようだ。さすがに、芯は残したほうがいいと思うけど。

 追加のホージュの実も含めて、狼たちは全ての食材を食べきった。まだまだ食べたりなさそうにしているが、これ以上あげると俺たちの食事が困ってしまう。

 「ショクジヲワケテモラッタコト、フカクカンシャスル」

 「アリガトウ」

 「オイシカッタ」

 「タスカッタ」

 ボス狼がお辞儀をすると、他の狼たちも一斉に俺たちに向かってお辞儀をした。なんとも礼儀正しい狼だ。

 「ところで、君たちはこれからどうするの?会った場所に転移させてあげることは、もちろんできるけど」

 確か、猿に縄張りを追われて、放浪中だったはずだ。あの場に転移したところで、それほど意味はないだろう。

 「アタラシク、スムバショヲサガソウトオモウ。スコシハナレタトコロガ、イイダロウ」

 「出産と育児があるからな。猿の群れと遭遇しない場所の方がいいだろう」

 リリティアさんの言うとおりだろう。狼の群れを追い払うような連中だ。生まれたばかりの子供を連れた状態で、その猿たちに出会うのは危険過ぎる。

 「ソウダナ。ヤマヲオリルノガ、アンゼンカ」

 「アンゼンナバショ、ヒツヨウ」

 「ズットスンデタノニ」

 「シカタナイカ」

 出産と育児が控えている状態で、新しく安全な縄張りを探さないといけない。それはとても大変そうだ。

 まあ、乗りかかった船だ。それに狼と住むのも、異世界らしくて悪くないだろう。

 「じゃあ、ここに住む?安全な場所だけは用意できるから、子育てが終わるまでだけでもどうかな?」

 「おい、いきなり何を言い出すんだ」

 「いいじゃないですか。困ってるみたいですし、俺たちに危害を加えることはないでしょうから。このまま放り出すのは気が咎めますし」

 「それはそうだが・・・まあ、育児が終わるまでくらいなら、別にいいだろう」

 リリティアさんは渋々ながらも了承してくれた。

 「ソレハネガッテモナイコトダ。ゼヒ、オネガイシタイ」

 ご飯をあげたことがきっかけなのか、ボス狼はこちらを信用してくれているようだ。

 「だが、ここはヌシの縄張りだ。近くに狩れる獲物がいないのと、子鹿を襲わないかという問題がある」

 リリティアさんの心配をそのままボス狼にぶつけると、どちらも問題ないという答えが返ってきた。ヌシの縄張りの外まで狩りをしに行けばいいし、鹿を襲わないよう群れの仲間に厳命するとのことだった。そもそも、他の生物を追い払えるやつとは、絶対に敵対したくないと言っていた。

 「じゃあ、実際に住む場所なんだけど、空いてる小屋があるからそこでいいかな」

 物置小屋として使っている小屋の中で、資材が少ない方へ案内する。置いてある資材は後で、もう一つの物置小屋に入れておけばいい。

 「戸締まりもできるから、安全性は高いと思うよ」

 「イイノカ?ニンゲンノタテモノニ、スマワセテモラッテモ」

 「もちろん。あ、でも硬い床じゃ出産や育児が大変だよね。土や草を入れたほうがいいね」

 いや、だったら新しく作る方が早いか。リリティアさんに手伝ってもらって、小屋を新しく作る。魔法陣内に生えていた草花が、全て返却される。これをそのまま小屋の中へと放り込んで、スコップで土を入れれば完成だ。湿気で床が傷むかもしれないが、ダメになったら壊せばいい。

 「じゃあ、これからは君たちの家はここで。これからよろしくね」

 狼たちは声を揃えて一斉に吠えた。その声色から、喜んでくれていることはなんとなく伝わってきた。

 こうして、近所に狼の群れが引っ越してきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ