一日目・食料を採集しよう⑬
ホージュの実を食べ終え丸太の上で寝転んでいると、リリティアさんが戻ってきた。
「そろそろやるか?もう少し休みたいのならば待っているが」
「いえ、もう十分です。それより、これから何をするんですか?」
休憩中もずっと気になっていた。今日一日、冗談や世間話はほとんどなく、事務的な説明や確認以外の会話はあまりなかった。時折挟まれる自慢以外は。
そんなリリティアさんだったから、「面白いものを見せてやろう」と言い残したことが印象的だった。
「木を保管する小屋を作ってもらおうと思ってな。丸太のまま野ざらしにしておくわけにもいかないだろう」
突然小屋を作れと言われても、大工の技術なんてあるはずがない。もちろん、この場で教えられて身につくようなものであるはずがない。
「いや、小屋作りなんて無理ですよ。やったことなんてないですし、時間もありません」
そう反対すると、リリティアさんは不敵に微笑んだ。
「それが簡単にできるんだ。革袋の中にある道具を使えばな。まずはそれを持って・・・おお、既に準備してあるじゃないか。前もって準備しておくとは感心だ」
言われていた物は休憩中に、革袋から取り出しておいたのだ。
それは金属でできた、黒い箱状の物だった。上方部には蓋があり、底には車輪が二つ付いている。
伸縮する取っ手がついたこれは、どう見てもラインカーだ。まだ、中に何が入っているか確認していないが、石灰でも入っているのだろうか。
「それは『神の門』という製品だ。指定された魔法陣を描いて材料を用意すれば、即座に対応した物が作り出される。これを使えば小屋もあっという間にできてしまうんだ」
説明をするリリティアさんの言葉には、今までにはない熱があった。今までの3つの道具とはかなりの温度差がある。これは期待も高まるというものだ。それにしても、神の門とは大仰な名前だ。
「小屋があっという間に作れるんですか?それはすごいですね!」
少しオーバー気味に相槌を打っておいた。
「そうだろう。私も最初に見た時は驚いたものだ。では、早速やってみるといい」
我が意を得たり、と得意になるリリティアさんだった。言われたとおり、作業を開始することにした。
まず、このラインカー、神の門だったか、これと一緒に入っていた説明書を開いた。付属品はこの説明書と、門をかたどったこぶし大の置物だ。
最初に基本的な使い方が書いてある。
「ああ、そこは今読まなくていい。使い方は普通のラインカーと同じだからな。小屋の作り方だけ見てくれ。木造家屋の中に、それらしいものがあるはずだ」
指示に従い、目次から小屋のページを探す。建築物だけでもかなりの種類があるようだ。住宅や水車小屋から各種発電所まである。
目次を探していくと、「木造」のカテゴリーに「小型建屋」という名称があった。
そのページを見てみると、平屋の小屋と思われるイラストが書いてある。
「うむ、それだな」
やはり、このページで間違いないようだ。
説明書を読んで、どのような魔法陣を作ればいいのか確認しよう。
まず、直径7mの円を描く。円の中心を通る線を2本、交差するように引く。その線に接する小さな円を4つ描いて、魔法陣は完成だ。
実際に使ってみた。この神の門という道具は、本当にラインカーと同じだった。引いてみると白い粉が出てくる。
「その粉がその製品の大事な部分でな。詳細は不明だが、その粉によって転移ゲートが開いて、材料が工場に直送されるんだ。そして、即座に組み立てられて、戻ってくる時は完成品が出てくるというわけだ。ちなみに、その粉は通称魔法の粉と呼ばれている」
「魔法の粉という名前の白い粉ですか・・・それ、合法なんですかね」
完全に違法な薬物にしか聞こえなかったので、そんな冗談を言ってみた。そもそも、これらを作っている人たちや、リリティアさんたちに法律という概念が通用するのかもわからない。
リリティアさんには冗談が通じず、怪訝な顔をされてしまった。やはり日本じゃないと通じないのか。
気を取り直して線を引く。簡素な小屋だからだろう、作業量はそれほど多くない。発電所のページには、もっと複雑な図が描いてあった。
かなり短時間で、魔法陣は完成した。
完成された魔法陣を見る。円は波打っているし、線はまっすぐ引けていない。これでいいのだろうか。
「きれいに引けてないですが、大丈夫でしょうか」
心配になったので、リリティアさんに確認した。
「それは問題ない。円の始点と終点がつながっていれば起動するから、それだけ注意してくれればいい。次に、必要となる材料だが、今回は木材だけだ。先ほど切り倒した木をそのまま使えばいい」
円の中に切り倒した木を全て置いた。必要な量よりは少し多いくらいだった。説明書によると、余ればそのまま戻ってくるから、全部置いてしまっていいようだ。
最後に、門のかたどった置物を最初に描いた円の上に置くと完成だ。この置物が、門の位置(前面)を決めると共に、魔法陣起動の鍵になるらしい。この神の門は、正しく作業を行えば誰でも利用可能のようだ。
「では、いきます」
泉に最も近い部分に、置物を置いた。こうすれば、小屋は泉に向かって建つはずだ。
しばらくすると、魔法陣が光り始めた。
その光が輝きを増していき、目も眩むほどになった。
薄目を開けて魔法陣を見つめていると、木が地面に沈んでいくのが見えた。
「木が地面に・・・」
「あれは地面に落ちていっているのではない。転移ゲートとなった魔法陣を通って、木材が転移しているんだ」
木が消え去って数秒後、地面から小屋が生えてきた。
小屋が完全に姿を現すと、魔法陣から光が消えた。
日の当たる更地に、一棟の小屋がそびえていた。
「これで完成だ。どうだ、驚いただろう」
俺はリリティアさんの言葉に返答もせず、突如目の前に現れた小屋をただただ眺めていた。
サブタイトルは丸で囲んだ数字で番号付けしているのですが、機種依存文字らしくひょっとしたらきちんと表示されていないこともあるかもしれません。表示がおかしい方、「一日目・食料を採集しよう」の後は番号を振ってあるだけなのであまり気にする必要はありません。表示がおかしいよ、という声があれば直します。