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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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二十二日目・遭遇③

 「お前がこの群れのリーダーか?」

 「ム・・・ニンゲンガシャベッタ」

 突然話しかけられたことに驚いたようで、奥にいた狼は少し動揺している。

 「シャベッタ」

 「コトバガツウジル?」

 「シンジラレナイ」

 「オカシイオカシイ」

 「コンナコトハジメテ」

 その他の狼はもっと狼狽しているようだ。驚きながらも動かなかったリーダーと比べて、明確に距離を取ったり動き回ったりしている。

 「お前がこの群れのリーダーで間違いないな?」

 リリティアさんが再度、奥にいる狼に向かって問いかけた。問いかけられた狼は、他の狼たちを落ち着かせて待機を命じた。

 「リーダーデハナイ。オレハコノムレノボスダ」

 「そうか、それは失礼した。では、ボスに一つ頼みがあるんだが、聞いてくれるか?」

 「・・・キクダケハキイテヤロウ」

 群れのボスを名乗る狼は、少し逡巡した後にそう答えた。

 「ふむ。言い方は気になるが、まあいいだろう。なに、頼みと言っても簡単なことだ。この先に用があるから、道を空けてくれればそれでいい」

 「コノサキッテマサカ」

 「オチツイテルナ・・・」

 「ハラヘッタ。トットトクッチマオウ」

 「オソッテクルワケデハナイノカ」

 群れの狼たちが思い思いに喋りだす。中に一頭、やけに好戦的なやつがいるな。こいつが群れのボスだったら、即襲われていただろう。

 しかし、狼も言っているけどリリティアさんはやけに落ち着いている。この数の狼に襲われそうになって、何でああも堂々としていられるのだろうか。

 「・・・イノチゴイヲスルワケデハ、ナイノダナ?」

 群れの連中を沈めてから、ボスを名乗る狼がそう言った。

 「命乞いだと?そんなことをする必要があるとは、とても思えないな。むしろ、その必要があるのはそちらの方だと思うが」

 そう言いながらリリティアさんは、転移装置に手をかけた。

 「ニゲヨウニゲヨウ」

 「ニンゲンノトビドウグダ」

 「ヤラレルマエニヤッチマオウ」

 「アンナノハジメテミルゾ」

 リリティアさんは大見栄を切っているが、転移装置に武装はない。しかし、それを知らない狼たちにとっては、未知の脅威に映っているようだ。警戒しているのが仕草や会話から伝わってくる。ボスだけはじっと動かずにリリティアさんを凝視している。

 「しかし、こちらとしても無用な殺生は好まない。大人しくここを通してくれると言うなら、これを使う必要はないからな」

 「ワレワレモナメラレタモノダナ。タカガフタリノニンゲンガ」

 「だが、無駄に戦闘をしたくないのは、そちらも同じなのではないか?後方に控えているメスは、出産が近いのだろう?」

 全ての狼が、ハッとしたようにリリティアさんを見た。ボスの近くにいる数頭の狼は、よく見るとお腹が大きいように見える。

 「そんな大事な時期に、無駄に仲間を減らしたくはないだろう。我々も、これを使って無駄な時間を消費することは、できれば避けたいからな。お互い、不必要な戦闘をしている時ではないだろう」

 群れのボスは押し黙ったままだ。攻撃するか否か、決めかねているのだろうか。できれば、このまま平和的な判断をしてほしい。

 「ナニモセズイッテクレルナラ、ソウシテモラオウ」

 「アンゼンダイイチ」

 「セッカクノエモノダゼ」

 「タベモノハマタサガセバイイヨ」

 「ソンナチンタラシテランネエンダヨ」

 群れの狼たちも、攻撃的な一頭を除いて穏健派のようだ。この声を聞いてボスがどう判断するかで、俺たちの命運が決まるだろう。どうか多数派の声を優先してくれ。

 「ショクジノキカイヲ、ノガスコトニナルガ・・・シカタナイナ」

 「まだこちらを餌にできると思っているのか。そちらこそ、我々を舐めているようだな」

 「リリティアさん?」

 折角相手が引いてくれようとしているのに、なんで更に煽っていくんだ。このまま大人しく通らせてもらえばいいじゃないか。

 「ボス!コノママニガスノカヨ!ウチノハモウナンニチモ・・・」

 「ダマレ。オマエノキモチハワカル。シカシ、ミナヲキケンニサラスワケニハ、イカナイ」

 「ダッタラ、オレダケデヤレバイインダロ!」

 「マテ、オチツケ」

 攻撃的な狼とボス狼が、言い争いをしている。しかも、このままだと一頭だけでも襲ってきそうだ。最悪、他の狼も追従して襲ってくるかもしれない。そうなる前に何とかしなくては。

 「えっと、そちらは何か困ってるみたいですね。もし良かったら、理由を話して下さい。力になれることがあれば、協力しますよ」

 ボス狼は黙って、しばらく考えていた。そして、その後に口を開いた。それは、少し前に起きた出来事についてだった。理由を話してくれるということは、ひとまず襲われる心配はなくなったということだろう。心底安堵しながら、ボス狼の話を聞いた。

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