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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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二十日目・異変④

 昼休憩後、リベルさんの家に向かう。一応家の外から呼びかけたが、返事がないので勝手に家に上がる。他人の家に勝手に上がり込むのは、少し躊躇してしまう。しかし、朝訪問した時に、リリティアさんが勝手に入ることを確認してあるらしい。確認した相手がリベルさんらしいが、お父さんもそれを了承しているのだろうか。少々不安にはなるが、悪いことをするわけでもないから堂々としていよう。

 入って二人に挨拶をすると、食事の準備をする。朝リリティアさんが作ったパン粥を温めるだけだが、他に山菜を使った付け合せを持ってきた。朝よりは随分回復していて、お父さんは自力で食べられる状態だった。リベルさんも最初は自分で食べていたが、辛そうにしているのを見たリリティアさんが食べさせていた。

 二人が食べ終わって、薬も飲み終えるのを見届けた。

 回復はしているようだが、まだ無理させない方がいいのかな。食器を洗いながら考える。

 「夕方動けるようなら、移動してもらう。ダメだったら明日以降、様子を見て決めよう。それと、彼らには移動してもらう話はしておいた。少し考えていたようだが、最終的には了承された」

 「あ、もう話してくれたんですね。どう言い出そうか悩んでたんで、助かります。お父さんの様子は良くなってきてますが、リベルさんがまだですね」

 「できるだけ早く移ってもらわないといけない。だから、多少の無理はしてもらうかもしれないが、今はまだ厳しいな」

 転移装置からリベルさんの家まで、片道30分程度かかる。そう何度も往復していては、ムクコマ探索に支障が出てしまう。それを避けるために、わざわざ宿泊施設を作ったのだ。

 夕方に来ること、また勝手に上がるかもしれないことを告げた。すると、お父さんから、むしろ勝手に上がって来てほしいと言われた。あまり長期間留守だと思われることは、防犯上避けたいとのことだ。扉を叩いて呼びかけるのは、確かに目立つ。それが何度も起これば、長期間家を空けていると思われる可能性はあるだろう。ともかく、明確に許可をもらえたので、次は気兼ねなく上がれそうだ。

 リベルさんの家を出て、女神の家に戻る。癒やしの水を一杯ずつ飲んで、すぐに家を出る。地図と転移装置の子機は、すぐに出発できるように親機の近くに置いてある。それらを持って、早速転移する。

 「今日は午後からだけになっちゃいましたね」

 「予定外の事態は、時折起こるものだ。半日遅れてはしまったが、あの二人の移送が済めば、感染経路を1つ潰すことができる。二人には悪いが、却って都合が良いかもしれないな。食事等の世話は増えるが、薬を届ける手間もなくなるからな」

 「リベルさんには絶対、そんなこと言えませんけどね。あなたが倒れて良かった、みたいなことは」

 「そうだな。さすがに言えないな」

 リリティアさんだって、本気で倒れてくれて良かったとは思っていないだろう。ただ、結果的には、感染者の隔離が可能になったのは事実だ。介護しているリベルさんを経由して、他の人が感染してしまうことが一番怖い。そうなれば、俺たちでは介入しきれない。大規模感染が起こっても、何も対応ができないのだ。町の人々に対して何の影響力も持たない俺たちでは、やれることが限られる。

 「ん?少し開けてきたな。視界が広くなるのは助かるな。野生動物の発見が容易になる」

 「そうですね。木々が疎らになってきたので、走りやすくて楽になってきました」

 疎らになってきたと言っても、密生状態に比べてという程度だ。森と呼ぶには十分に、樹木が育っている。それでも、視界が開けて走りやすくはなった。

 「お、山が見えてきたな。あれが私達が目指している山だ」

 リリティアさんが指差した先は、木々の合間から辛うじて遠くの景色が見えた。そして、そこには確かに山があった。

 「随分と遠いですね。まだまだ先は長そうだ」

 「そうでもないさ。地図を見てみろ。山の麓には今日中に着きそうだろう」

 そう言われて地図を開く。昨日の昼に設置した転移装置と夕方の転移装置、そして山の位置を見比べる。

 「距離的には半日走った距離と、山までの距離はそれほど変わらないんですね」

 「ああ。遠く見えるかもしれないが、実際にはそれほど遠くはない」

 「森の中を走ってても、景色が変わらないからどれだけ走ったのかがわからないんですよね。山が見えてきて、ようやく距離感がわかりました」

 これまで、結構な距離を走ってたのか。日本だったら考えられない話だ。自動車か電車を使うような距離を、毎日自分の足で走り続けていたんだから。

 それを考えると、達成感はある。でも、地図を見ると、この森全体ではごく一部に過ぎないということがよくわかる。森林の管理という仕事柄、端から端まで網羅する必要があるだろう。先の長さも、同時に実感してしまう。だけれど、まだこの仕事は始めたばかりだ。気長にやっていくとしよう。

 「さて、ゴールが見えてくると、ちょっとやる気が出てきますね。明日は朝から登山を始められるように、今日は麓まで一気に行ってしまいましょう。夜にリベルさんの家に行くことを考えると、少しでも早めにたどり着いた方がいいでしょうし」

 「お、やる気だな。視界も広くなったし、障害物が少なくて走りやすくなった。今まで以上に飛ばしていくぞ。頑張ってついてこいよ!」

 遠くの最終目標に気を取られても仕方がない。まずは走った先にある、南の山というゴールを目指すことにしよう。

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