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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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二十日目・異変②

 薬を持って、リベルさんの家までやってきた。早速玄関扉を叩いて、リベルさんを呼ぶ。

 「返事がないですね」

 「ああ。まだ寝ているのだろうか」

 いつもであれば、リベルさんが招き入れてくれる。しかし、今日は待ってもそれがなかった。もう一度扉を叩いて呼んでみるが、リベルさんが出てくる気配はなかった。

 「出ませんね。これだけ呼べば起きそうなものですけど」

 「彼女が家にいないのかもしれないな。猫目石の方に行ってみるか」

 猫目石へと確認に向かうが、店内に人気はなかった。裏口の扉を叩いて呼んでみたのだが、それでも反応がない。ここにはいないのだろう。

 「猫目石にもいませんね。買い物にでも行ってるんでしょうか」

 「かもしれないな。とりあえず、家の前まで戻ろうか」

 もう一度玄関先からリベルさんを呼んでみたが、やはり出てくる気配がない。やっぱりいないのかな。

 しかし、これだけ呼びかけても何の応答もないのは変だ。お父さんは病気で寝込んでいるが、薬で症状を抑えているはずだ。リベルさんがいなくても、呼びかけに応じることくらいはできるだろう。それに、今日が薬を持って来る日だとわかっているはずのに、リベルさんは家を空けるだろうか。何かあったんじゃないだろうか。少し心配になってきたな。

 扉に力をかけてみると、少し開いた。

 「あれ?鍵がかかってませんね」

 「勝手に扉を開けるのは感心しないな」

 「まあ、緊急事態かもしれないので。誰もいないのに鍵が開いているなんて、ちょっとおかしいですよね」

 「本当に不在ならば、確かに不用心だな。家にいるのに呼びかけに応じないということならば、確かに緊急事態なのかもしれない」

 「そっと入ってみますか?」

 「そうだな。私が入って様子を見てこよう」

 リリティアさんは建物の陰にしゃがみ込むと、人形モードになって戻ってきた。そのまま、少しだけ開いている扉の隙間から、家の中へと入っていった。

 しばらくすると、家の中から声がしてきた。内容は聞き取れないが、リリティアさんの声だ。

 気になって耳をそばだてていると、こちらへ歩いてくる足音が聞こえてきた。家の中を覗き込むと、その音の主はリリティアさんだとわかった。いつの間にか人間モードに戻っているようだ。

 「ちょっと手伝ってくれ」

 リリティアさんに言われるまま、家の中へと入る。今ではリベルさん親子が寝ていた。

 リベルさんはベッドで布団を掛けて寝ている。しかし、お父さんの方は、ベッドではなく床で寝ていた。いや、寝ているというよりは、倒れていると言った方がいいだろうか。

 「リリティアさん、これは?」

 「わからない。来たらこの状況だった。ひとまずこの男をベッドにあげるぞ」

 リリティアさんと協力して、リベルさんのお父さんをベッドに寝かせた。

 「薬が効いていないんですかね。それとも、飲んでいないのか」

 「それもわからない。しかし、症状は最初に来た時と同じだな。痰の絡む咳と高熱。胸の痛みがあるのかは、聞ける状況ではないが。それと、彼女の方は・・・」

 リリティアさんは、リベルさんの様子を確認している。

 「同じだな。高熱と咳がひどい。だが、症状はこちらの方が重そうだ」

 「感染ったんですかね。とりあえず、薬は持ってきているわけですから、飲んでもらいましょうか」

 長い間、お父さんの看病をしてきたのだ。お父さんの病気が、リベルさんに感染したと考えるのが自然だろう。元々、この薬は症状を抑えるものだから、同じ症状だから別の病気だったとしても効果はある。

 「食事が先だな。おそらく朝食がまだだろう。いや、朝食どころかしばらく食事を摂っていないかもしれないな。いつからこの状態なのか、ひとまず容態が落ち着かないことにはそれも聞けないだろう」

 二人とも倒れているからな。食事を作れる状態ではないだろう。問題は、それがいつからかということだ。

 「台所と食材は勝手に使わせてもらうぞ」

 リリティアさんはそう言って、台所へと向かった。お父さんもリベルさんも返事はなかったが、お父さんの様子から同意したものと思っておこう。非常事態だし本人たちに必要なことだから、後から文句言われることはないだろうけど。

 しばらくすると、リリティアさんがどんぶりを二つ持って戻ってきた。パンと野菜が入ったスープ、いや、パンで作ったお粥だろうか。

 自力では食べられそうにないため、俺がお父さんに食べさせることにした。リリティアさんはリベルさんを担当した。

 半分ほど食べた後、お父さんがもういいという仕草をした。薬は飲めそうか尋ねたら、頷いたので薬を用意する。そのままでも一応飲めるらしいけれど、水で服用したほうがいいだろう。

 台所のヤカンに湯冷ましがあった。リリティアさんが料理のついでに用意しておいてくれたんだろう。お粥も鍋に結構な量作ってある。こちらは夜の分まで作っておいたのだろう。

 湯冷ましを注いだ湯呑を2つ、部屋まで持っていく。二人が薬を飲み終えたのを確認して、台所を片付けた。しばらく二人の様子を見ていたが、特に問題はなさそうだ。後は薬が効いて、症状が緩和されるのを待つだけだろう。

 また来ますとだけ言い残して、リベルさんの家を出た。

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