一日目・食料を採集しよう⑫
切り分けた残りも全て、日の光の当たる更地へと運び終えた。残りの木も全てこの作業を繰り返せば完了だ。
元の状態を知っているわけではないが、泉の中に一本も木が生えていなければ、元通りといってもよいだろう。
残りの木を切る順番は、湧き出しているところから近い順だ。それほど大量に湧き出しているわけではない。すぐに水が迫ってくるということはないが、念のため水に浸かりそうな順番に切っていくことにした。
一番近い木は、最初に切り倒した木の半分ほどの太さしかなかった。
先ほどと同じように、燃えろノコギリで切り倒した。やはり、大した抵抗もなくスパッと切れる。この手応えがなんともいえない。
今回は先に切り分けることにした。熱が残っている内に切り分け作業を終えることで、少しでも省エネになるといいのだが。先ほどの木の重さから考えると、二等分にしておけばいいだろう。
切り分けた後は、バールのようなものに持ち替えて切り株を根っこから引き抜いた。細い分だけ、先ほどよりも簡単に抜くことができた。
この木も同じように更地に置いた。
日の当たるところはジリジリと暑い。森の中はひんやりとしているが、照りつける太陽は初夏のそれだった。夏に入った頃合いだということを、初めて実感した。
涼を求めて、湧き出す水で顔を洗った。冷たい水が心地よい。
気持ちを入れ直して作業に戻る。
それから3本目、4本目と順調に進んだ。
5本目に取り掛かっている最中、リリティアさんが話しかけてきた。
「どうだ?そのノコギリを何度か使ってみて、マナを消費している感覚はあるか?」
それに関してはあまり意識していなかった。なので、木の幹に燃えろノコギリを当てて、虚脱感を感じるか試してみた。
「特に感じないですね。少なくとも、バールのようなものほどの感覚はないです」
2本目からはバールのようなものも、最初ほどの違和感はなかった。見えている根っこをある程度切り落としてから引き抜いているため、最初よりは力が不要だったからだろう。水に浸かっていないからこそできることだ。
「ふむ・・・そうか、わかった」
何がわかったのかはわからなかったが、それ以上の話はないようだった。
その後も順調に作業は続いた。7、8本目くらいから、徐々にバールのようなものの使い方がわかってきた。力の入れ具合やタイミングによって、抜きやすさが違うのだ。虚脱感に関しても、強くは感じなくなった。
これについてリリティアさんに話したところ、マナの使い方を体が覚えはじめているのかもしれない、とのことだった。
懸念していたマナの枯渇もなく、最後の一本を運び終えた。
切り倒した木はある程度仕分けをして並べた。根がついた切り株、切り分けられて丸太になった木の幹、枝がついている部分の3つだ。
作業時間は2時間ほどだろうか。時計がないためわからないが、日が沈むまではまだ時間がありそうだ。
革袋に詰めたホージュの実を一つ取り出してかじる。スカスカで甘みが少ないためおいしいとは言えないが、休憩中のおやつとしては悪くない。
かじりながら、適当な丸太に腰を下ろした。
「まさか、最後まで抜き終えるとは思わなかったな。思ったよりもマナの量が多いのかもしれないな。マナが減ると独特の感覚があるものだが、何か感じているか?」
食べ終えると、リリティアさんにそう尋ねられた。食べ終わるのを待ってくれていたようだ。
「うーん、よくわかりませんね。今のところは特に何も感じないです」
存在すら知らなかったものだ。ある日突然それを道具に引き出されて、減った感覚だとか使った感覚だとか言われてもわかるわけがなかった。
「そうか・・・五感とは異なる感覚だからな。これから使っていけば、徐々に感覚がつかめてくるだろう。個人差があるが大半の者が、概ね半分を消費したくらいからマナの低下を強く感じるようになるようだ。私は正確に残存量を把握できるがな」
またしても最後に自慢が入った。
それに苦笑いをしながら、丸太から立ち上がった。
「では、帰りましょうか。待ってもらい、ありがとうございました」
「それくらい礼には及ばない。それに私は、水の確保さえすればよいと思っていたからな。泉に浸かる木を全て抜いたお前の判断のほうが、森の守護者としては正しかった。私もまだまだ至らないな」
「リリティアさん・・・」
「まあ長くやっていても学ぶことはまだまだあるということだ」
そう言うと、隣の木の枝に座っていたリリティアさんが顔の前に飛んできた。
「そうだ、最後に一つ面白いものを見せてやろう。時間によっては明日に持ち越そうかとも考えていたのだが、折角だからな。休憩が済んだら、革袋の底にあるものを取ってきてくれ」
もう少し休んでいていいぞ。そう言い残して、彼女はどこかへ飛び去ってしまった。