表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
158/188

十七日目・南の山へ③

 女神の家を出発してからは、森の中をひたすら走る。マナの力を使っているので、かなりのスピードが出せているように感じる。だから、足元や周囲に気を配るのが大変だ。常に地面の起伏や木々に注意を払っていないと、転んだりぶつかったりしそうだ。日々の生活や格闘術の稽古によって、マナの使い方にはある程度慣れてきた。普通では考えられないほどの素早い動きが可能になった。しかしその分、体の動きに脳と目がついていけなくなりつつある。ただ走っているだけなのに、周囲の確認に脳がフル回転している。

 そんな俺の前で、真紅のポニーテールが揺れている。鬱蒼とした森の中で、鮮やかな髪色がとてもよく目立つ。

 今回もいつも通り、リリティアさんの後を俺がついていくという形になった。目印も何もない森の中で、目的地に向かってまっすぐ走るのは難しい。それができるリリティアさんに先導してもらうことになるのは、至極当然だろう。リリティアさんのGPSみたいな能力は、俺にはというよりは人間には真似できそうにない。

 しばらく走っていると、リリティアさんが右手を挙げて減速した。それに合わせて俺も走っているスピードを落とす。立ち止まったリリティアさんが、あれを見ろと指を指した。

 指を指した先には、ヤギのような生物が3頭いた。体長は7,80センチほどで、体色は白っぽい茶色という感じ。テレビなどで見たことのあるヤギに比べると、足が若干短いのかなという印象だ。

 「ヤギですか」

 「ああ。この世界の人間がどう呼んでいるかは知らないが、我々はシンリンチャイロヤギと呼んでいる。ヤギがいるということは、ヌシの縄張りはもう抜けているということだな」

 「そうなりますね。肉食の猛獣が出てくる可能性もあるので、気を付けないといけませんね」

 以前のように、クマと遭遇する危険性もある。あの時はクマがこちらに気づく前に距離を取れたからよかったが、木々が多く死角が多いこの森の中では、もっと近い距離で鉢合わせすることもあるかもしれない。できるだけそういうことは減らしたいので、慎重に行動しよう。

 リリティアさんも同じ考えのようで、走るスピードが少し遅くなった。走りながら、絶えず周囲を警戒しているようだ。俺もできる限り、大きな動物がいないか周囲を見渡しながら走る。

 「よし、そろそろ昼休憩にしようか」

 しばらく走っていると、リリティアさんがそう言った。俺は気づいていなかったが、もう正午を過ぎているようだ。

 転移装置を地面に置いて、ペグで固定する。金槌などがないので、手頃な石を拾ってきて代用した。

 「あ、地図を持ってくるの忘れました」

 「昼休憩後、ここに戻ってきた時にやればいいだろう」

 転移装置を設置した場所はどこか、地図に登録しておかないとわからなくなってしまう。後で忘れずに登録しておこう。

 女神の家に戻って昼食だ。メニューは、野菜スープと干し肉のサンドイッチだ。一日走り続けるため料理をする余裕がないと思い、あらかじめ昼食と夕食は朝の内に用意しておいた。夕食は食材を適当にブチ込んだ寄せ鍋だ。こちらは出汁を入れて火にかけるだけの状態にしてある。

 スープを火にかけている間に、ホージュの実を切る。スープが煮えるのを待って、昼食を摂った。

 「半日ほど走りましたけど、思ったよりも疲れたって感覚がないですね」

 「マナの使い方が上達してきたんだろう。数日は同じように走り続けることになるから、より一層マナの力に頼った走り方を心がけた方がいい。無駄に体力を消耗すると、後々辛いからな」

 「わかりました」

 「それと、疲れていると思わなくても、癒やしの水を飲んでおけ。目的の花が見つかるまで、常飲していい。ユナからまた大量にもらったからな」

 「そうですね。ビックリしましたよ」

 兄妹子鹿と遊んだ後にユナさんが汲んでくれた水は、癒やしの水だった。気づかずに家まで運び、その後リリティアさんが気づいたのだ。ありがたいことだけれど、黙って渡されたから知った時は驚いた。

 癒やしの水で水分補給をしながら、ソファにもたれて休憩する。昼休憩が終わったら、後はずっと日没まで走り続けることになる。ゆっくり休んで、英気を養うことも重要だ。もっとも、普段と比べれば小一時間遅くに休憩を取っているので、午後の活動時間はいつもよりも短い。転移装置をなるべく等間隔で設置したいので、少し昼休憩のタイミングを遅らせたのだ。

 「では、そろそろ出発しようか」

 リリティアさんに促されて、昼休憩前に設置した転移装置に転移する。忘れずに、地図に現在地を登録しておく。軽く準備運動をして、再度走り出す。

 午後も、適宜小休止を挟みながら南の山に向かって走り続けた。幸運にも、肉食獣などの猛獣に出会うことはなかった。途中何度か、イノシシやヤギ、飛ばない鳥などは見かけた。しかし、こちらに気づくとすぐに逃げてしまって、じっくり見るということはできなかった。異世界の動物を間近で見る機会なので残念だが、向かってこられても怖い。

 順調に走り続け、日が暮れてきたところで転移装置を設置した。地図で現在位置と南の山を見比べると、後3,4日はかかりそうだった。到着してから花を探すことを考えると、一週間くらいは必要かもしれない。

 薬の原料は残り1つで完成だとはいえ、これは時間がかかりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ