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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
156/188

十七日目・南の山へ①

 日の出前に女神の家を出て、リベルさんの家の前までやってきた。到着した頃に、ちょうど太陽が顔を出した。これだけ早起きをしたのは、周辺の殺菌消毒のためだ。リベルさんの家の周囲から猫目石までの道で、ウィルスを除去する装置を用いて消毒する。不審者と思われないように、人目のないタイミングを狙って素早く作業を行いたい。そのために、人通りの少ないこの時間を選んだ。

 「やっぱり、マスクしてると見られますね。この町ではしてる人を見たことありませんから、当然でしょうけど」

 「そうだな。顔を隠しているから、怪しいと思われる可能性が高い。なるべく住民と出会わないように、手早く進めるぞ」

 マナポイントとの交換で、マスクを手に入れた。俺たちが感染源になるわけにはいかないから、町に入る時には、マスクの着用は絶対だ。俺たち二人だけがマスクをしているわけだから、当然目立つ。ウィルスの検出と消毒作業と同様に、早朝の作業をすることになった原因だ。

 リリティアさんに周囲の確認をしてもらいながら、地面と建物の外壁をスキャンする。かなり手間のかかる作業になると思ったが、それほど大変ではなかった。読み取る部分は30センチ程しかないが、離して使うことで1メートルくらいまでスキャンできる範囲が広がったからだ。装置自体が軽いこともあって、洞窟で使った地質測定器ver.5に比べたら遥かに楽な作業だ。

 誰かが来たら作業を止めて装置をしまい、人目がなくなったことを確認したら作業を再開する。そうして、猫目石までやってきた。しかし、最後が一番難しかった。猫目石は大通りに面しているから、この時間でも人通りがそれなりにある。完全に通行人がいなくなるまで待つのは、不可能だった。そこで、スキャン作業をリリティアさんに替わってもらい、俺が壁となって死角を作ることにした。こうすれば、装置が町の人に見られることは防げる。装置さえ見られなければ、開店準備に店の前を清掃しているくらいにしか思われないだろう。掃除中に布巾で鼻と口を覆う姿は、この町でも見かけたことがある。だからマスクに関しても、遠目ならそれほど違和感がないはずだ。

 こうして、リベルさんの家から猫目石までの道は、一通り除去作業が終わった。消毒したのは、家の前で3回と猫目石の扉で1回の計4回だった。これが多いのかどうかはわからないが、消毒した範囲では新たな感染者は出ないはずだ。

 引き返してリベルさんの家に向かう。リベルさんにお父さんの様子を聞いて、3日分の薬とマスクを渡した。容態は悪くないが、回復もしていないらしい。これは予想通りの返答だった。更に、昨日リベルさんがどこに行ったかも確認する。猫目石を開店させていた以外は家にいたとのことだ。今回のウィルスは、屋外では1日以上存在できないらしい。だから、確認するのは昨日だけで十分だ。お父さんが出歩いていないことも、本人に確認した。発症前の話を詳しく聞きたいところだが、これは本人の快癒を待ってからにしよう。国外まで買付に行っていたと、リベルさんから聞いた。長旅だったそうだから、詳細を今聞くのは負担になるだろう。

 家の中と猫目石の店内も消毒したいところだが、流石にそれは無理だろう。リベルさんには外出を控えることと、外出の際にはマスクを着用することをお願いした。マスクは10枚セットを渡したから、薬より早く使い切ることはないだろう。マスクの肌触りや着け心地などを、リベルさんは熱心に確認していた。マスクなんて猫目石で売れそうなものだとは思えないが、初めて見るものに対する好奇心なのだろうか。

 リベルさんの家を出た後は、まっすぐ女神の家へと帰る。そして、転移装置でユナさんのいる泉へと向かった。少なくなった水の補充と、ムクコマという花についてユナさんに聞くためだ。長い間この森に住んでいる彼女なら、何か知っているかもしれない。

 泉に着くと、ユナさんの他に兄妹子鹿がいた。兄妹子鹿はユナさんに遊んでもらっているようで、跳ね回る水球を楽しそうに追いかけ回している。

 「おはようございます」

 声をかけると、みんなこちらに気づいたようだ。

 「あら、守くんとリリティアさん。おはようございます」

 「お兄ちゃんとお姉ちゃんだ、おはよー」

 「・・・おはようございます」

 「ユナさんに遊んでもらってるんだ。楽しそうだね」

 「うん!ウンディーネのお姉ちゃんと遊ぶの好きー」

 兄鹿が元気よく答えてくれる。

 「あ、もう角が生え始めてるんだ?」

 「うん、ちょっとだけどね。また伸びて、大きくなったらまた抜けるんだって母ちゃんが言っていた」

 「そうなんだ。この前もらった角なんだけど、ちょっと訳があって必要になったんだ。使わせてもらっていいかな?困ってる人を助けるためにどうしても必要でね」

 ダメと言われても、使わないわけにはいかないけど。

 「いいよー。そんなのお兄ちゃんの好きにしていいよー」

 提供者から快諾してもらったので、気兼ねなく薬に転用できる。

 「そんなことより、お兄ちゃんたちも一緒に遊ぼうよー」

 兄鹿が頭をこすりつけながらそう言ってきた。妹鹿の方を見ると、こちらをじっと見ている。

 リリティアさんの方をちらりと見ると、小さく頷いた。

 「じゃあ、ちょっとでよければ遊ぼうか」

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