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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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女神アイリアと緊急会議

 オストーン内の流行病の懸念に対する緊急会議は、滞りなく進みました。まずこの中央大陸の部門長であるミーシャ様から緊急会議の目的が説明され、次に私がオストーン国内の状況と罹患した者の症状を説明しました。もっとも、国内での感染拡大はまだ起こっていないので、症状の説明が中心になりました。その次に、似たような症状の感染症が確認されている地域があると、ミルテさんが報告をしました。彼女の担当は大陸中央部南東なので、オストーンとは少し離れた場所で酷似した感染症があることになります。ただ、あちらでは症状がそれほど酷くなく、40度近い高熱や常時咳き込むなどの重い症状はないそうです。随分前からそういった症例はあるが、重症ではないから対処していなかったと言っていました。確かに、その程度であればただの風邪と同じですからね。実際に、多少異なっているが、と似た症例を上げる方は他にもいました。

 他の地域でも同様の感染がないか、一度確認することになりました。類似する感染症があれば、同じウィルスかどうかを更に調べることになります。こちらでも別の感染者がいないかと、患者の発症までの移動経路を調べることになりました。これは、後でリリにお願いしておきましょう。

 しかし、問題はこの後です。実際に流行の可能性のあるウィルスが発覚している状況に対して、ミーシャ様は何の対応もしないと言いました。今後流行しても、他地域も含めて地域担当の神は一切の関与を禁止するとのことです。これには驚きました。他の皆さんも驚いたようで、聞いた直後はざわついていました。せっかく蔓延する前に発見できたのに、初期対応のチャンスをみすみす見逃すわけですから当然です。しかし、感染症への人間の対応を研究するためと言われては、それ以上文句をつけるわけにはいきませんでした。

 結局、この感染症に関しては、状況の把握に努めるという結論で会議は終わりました。状況を把握しても、何の対応もしないのならば全く意味がないと思うのですが。上の決定であれば仕方ありません。不満はありますが、これが組織というものです。

 「おい、アイリア。ちょっといいか」

 やるせない思いのまま会議室から出ようとした時、ミーシャ様から呼び止められました。少し待っているようにと言われ、会議室の椅子に座ります。私が席についたのを見届けた後、ミーシャ様は会議室から出ていってしまいました。要件も言われずに待たせられるのは、少し困ります。一体、要件は何なんでしょうか。今回の件についてだろうとは思いますが、何を言われるんでしょうか。勝手な行動を取らないように、念を押されるのでしょうか。

 他の出席者が全員いなくなってから、ミーシャ様が会議室に戻ってきました。横には男性がついてきていました。はて、どこの部署のどなたでしょうか。見たことはあると思うのですが・・・よく思い出せないままですが、とりあえず立ち上がって会釈をしておきましょう。

 「彼は微生物の担当者だ。リリティアが持ち込んだウィルスについて調査した者だ」

 なるほど、月の方で勤務している方でしたか。あちらの方とはあまり交流がないので、知らないのも無理はありませんね。役職はわかりませんが、おそらく勤続年数は彼の方が長いでしょう。

 「初めまして、と言った方がいいのかな。生物班微生物係のウィルシリスだ。よろしく、アイリア君」

 「初めまして。中央大陸南端半島担当のアイリアと申します。よろしくお願い致します」

 ひとまず挨拶は済ませましたが、状況がよくわかりません。ミーシャ様がウィルシリスさんを連れてきた意味は、一体何でしょうか。

 「ところで、ミーシャさん。頼まれてた資料がこれだ。これに全部まとめてあるから、これさえきちんと目を通してくれていれば大丈夫なようになってますよ」

 「ありがとうございます、ウィルシリスさん。これだけの量の資料を短時間で・・・助かります」

 ウィルシリスさんが持ってきたファイルを、ミーシャ様が読んでいます。一体何の資料でしょうか。ファイルを確認し終えると、ミーシャ様がこちらを向きました。

 「アイリア、このファイルは今回のウィルスに関する資料だ。彼に無理を言ってまとめてもらった」

 「まあ俺だけじゃないけどね。植物と動物の担当者にも協力してもらってるから。みんなも同じ思いだから、喜んで協力してくれたけどね」

 「このファイルにはウィルスについての情報と、特効薬を作る方法が書いてある。特効薬を作る材料は、お前の担当区域で手に入る。それも、中央の森の中だけで全て揃う」

 「お言葉ですが、この感染症に対しては対応してはいけないとおっしゃいましたよね?」

 特効薬を作る方法がわかっても、それを作って患者に飲ませることを禁止されてるのですから意味がありません。

 「私は上に確認を取った。部下である地域担当の神が、対応するのを禁止すればいいのですか、とな。そうしたら、返答は私を含めた上級の神々も関与を禁止すると言われたんだ」

 「そうですか。ではミーシャ様も手が出せないんですね」

 「あの森には今、リリティアと異世界から連れてきた人間がいるんだったな?」

 「ええ、そうですが・・・あ」

 「私が聞いたのは、神に対する命令だけだ。精霊や外部協力者に対する指示までは受けていない」

 なるほど、そういうことですか。

 「よし、アイリア君。簡単にだが、君の部下にやってもらいたいことを説明しよう。ファイルに全部書いてあるが、一応君に説明しておく」

 ウィルシリスさんの説明は、感染予防と特効薬の作り方についてでした。特に入手が難しい厄介な材料があるそうです。発見がかなり難しいから、特効薬を作るのは厳しいかもしれないとも言っていました。リリと守さんには、町中の殺菌に力を入れてもらって、特効薬はできたらでいいと言った方がいいでしょうね。

 「まあ、わからないことがあったら、その時に聞いてくれ」

 「ありがとうございました。すぐに部下に渡して、感染対策に活用してもらいます」

 では早速、このファイルをリリと守さんのところへ持ってきましょう。礼を言って会議室を出ようとすると、後ろからミーシャ様に声をかけられました。

 「大規模感染を防げるかどうかは、リリティア達にかかってる。よろしく頼む」

 私は小さくうなずいて、会議室を出ました。

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