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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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十六日目・再会⑤

「最後の1つは存在自体が希少です。なので、特効薬を作ることも、可能であればで構いません。そもそも、守さんの本来の職務からは逸脱する仕事ですから」

 「存在が希少ですか。ところで、それも花なんですか?先の2つはそうでしたけど」

 「いえ、最後の1つは動物の角です。オオツノマダラシカという鹿の角が最後の原料です。オストーン西部では、ネジレツノと呼ばれているそうですが」

 ん?その名前は聞いたことがあるな。

 「この森にも生息していますし、頭数も少なくありません。ですが、オスにしか角がなく、また、子供の角である必要があります。成長期には成長に応じて角が落ちるのですが、この成長期の角にしか特効薬に必要な成分が含まれないのです。ですので、成体のオオツノマダラシカの角を手に入れても意味がありません。もっとも、成体の角が折れたりすることは稀だそうですが」

 あれ?俺、それ持ってない?

 「この落ちた角を手に入れる必要があるのですが、地面に落ちた角を偶然見つけるなんて、余程の幸運がないと難しいでしょう。それと、子鹿は警戒心が強く、親も近くにいるため狩りで捕まえることも困難です。だから、咲きそうな場所がわかっているムクコマよりも、ずっと難しいとされています」

 立ち上がって、暖炉の上から兄鹿の角を取った。

 「守さん、いきなり立ち上がってどうしましたか?」

 「あの、アイリアさん、これ」

 角をテーブルの上に置いた。

 「これは?・・・動物の角ですか?」

 アイリアさんは訝しそうに、兄鹿が落とした角を見つめている。今本人が言ったものの、まさに現物なんだけど。

 「アイリア、それがオオツノマダラシカの角だ。子鹿のもので間違いない。角が落ちた瞬間を、私も見ているからな」

 「え?これがそうなの?・・・え?なんであるの?」

 「えっと・・・仲良くなった子鹿がこの家の周りで角を落としていったんで、折角だから飾っておこうと思って持ち帰ってました」

 「あー、日報に鹿の話がありましたね」

 鹿に洞窟を案内してもらったという話は、日報に書いておいた。だから、アイリアさんも知っているはずだ。だけど、オオツノマダラシカという種類であるとは書いてなかったっけ。

 「なるほどなるほど・・・こほん。では、守さん、これがオオツノマダラシカの角で間違いありませんね?」

 「はい。角が落ちた後、すぐに拾いましたから。その子鹿の角で間違いありません」

 「そうですか。では、入手困難とされている原料の内、2つを既に保有しているということですね。さすがですね、森野守。あなたを森の守護者に任命した、私の目に狂いはなかったようですね」

 急にキリッとした表情に変わると、アイリアさんはそう言った。俺に対する話し方と、リリティアさんに対する話し方では随分と違うなぁ。

 「ここまで揃っているなら、残りのムクコマも是非とも見つけてきて下さい。難しいとは思いますが、頼みましたよ守さん」

 「わかりました。期待に応えられるよう、頑張ります」

 最初はできる範囲で、ということだったけど。まあ3分の2が見つかっているんだから、多少無理してでももう1つも揃えたいのは俺も同じだ。

 「では、必要なことは全てお伝えしました。詳しいことは、このファイルに全て書いてありますので確認しておいて下さい。ムクコマの生育しやすい環境も書いてありますから、参考にして下さいね。それでももし、わからないことや困り事があれば、通信室を使って連絡して下さい。その際、日報とは別にして送るようにして下さい」

 「わかりました。聞きたいことがあったら、日報とは別に連絡します」

 「では、私はこれで失礼します。・・・おっと、1つ忘れていました。手土産を持ってきているので、後で食べて下さい。私達の世界の食べ物ですよ」

 「ありがとうございます。食べてみたかったんですよ。アイリアさんたちの世界の食べ物を」

 俺が食べてみたいと言っているのを、リリティアさんから聞いたのかな?わざわざ持ってきてくれるなんて、アイリアさんは優しい上司だ。

 「ところでアイリアよ、ちょっといいか?」

 「リリ、どうかしたの?」

 俺とアイリアさんの話が一段落したところで、リリティアさんが口を開いた。

 「この像なんだが、こんなものを設置するなんて話にはなっていなかったよな?」

 「えっと・・・それは・・・その・・・」

 「暖炉の上や2階の個室に飾ってある絵画もだ。建築前の打ち合わせでは、こんなものは発注していなかったはずだが。あれらもこれも、全部お前をイメージしてわざわざ作られた特注品だよな?」

 「そ、それは・・・えっと、守さんのためよ。異世界に連れてこられて不安な守さんも、女神に見守られていると気づけば安心するかと思ってね」

 「ほう。毎日日報を送っている時点で、お前に相談できる環境は整っていると思うが。それに、私もいる。そもそも、像や絵画で安心するという確証はあったのか?予算をつぎ込んでまで設置するほどの意義があるのか?それに、私に内緒にしていたのは何故だ?アイリアよ、答えてみろ」

 「う・・・それは・・・えっと・・・ごめんなさい」

 「悪いと思った上でやったのか?」

 「い、いいじゃない、これくらい。それほど高額じゃないんだし。私だって神々しく美しい女神として、崇められたかったんだもん。人間の宗教みたいに、神を奉るための像とか絵画が欲しかったんだもん」

 アイリアさん、言葉が子供っぽくなってないか?リリティアさんと話す時は、こっちが普通なのかな?

 「ま、まあ確かに、あの絵が癒やしにはなりましたし」

 「え?本当に?」

 なんでアイリアさんが聞くんだよ・・・自分が言ったことに自信持ってよ。アイリアさんを思い出してというわけではないが、美人が描かれた絵を見て心が和んだのは事実だ。

 「それにこの家に女神の家という名前をつけましたが、女神像があったことも理由の1つですしね。地図への登録などの便宜上、名前をつける必要があったんで勝手に名付けちゃいましたけど。どちらも、意味があったと思いますよ」

 何故、俺がフォローしてるんだろう?

 「リリ、私が言ったことはホントだったでしょ?守さんのためになっているのよ」

 「そういうことにしておいてやろう。どの道、もう作ってしまったから、撤去しても意味はないしな」

 「私の女神としての威厳があったればこその結果よ」

 「あ、アイリアさんお言葉ですが、もうボロが出てるというか、メッキが剥がれてるんで。俺に対しての口調も、もっと砕けてても大丈夫ですよ」

 「め、メッキが剥がれてるって何よ!」

 素のアイリアさんの方が、親しみやすくて魅力的だと思うな。

2021.3.21 誤字修正「コマクサ」→「ムクコマ」。コマクサとは高山植物の女王と呼ばれる植物で、実在する高山植物です。ムクコマの名前の由来(無垢+コマクサ)となっていて、間違えて由来の方を書いておりました。

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