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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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十六日目・再会④

 「状況はわかりましたが、実際にはどうしたらいいでしょうか。薬でも症状を抑えているだけですし、厄介な病気だということはわかります。でも、感染を防ぐ方法も、今罹っている人を治療する方法もわかりません」

 俺は、アイリアさんにそう尋ねた。防疫の専門家ではない一般人が、一人で何ができるんだろうか。

 「感染を防ぐためには、これを使ってください」

 そう言ってアイリアさんは、機械をテーブルの上に置いた。レジのバーコードリーダーを想起させる形状をしているが、バーコードを読み取る部分が30センチくらいの正方形になっている。

 「これは目に見えない細菌やウィルスなどを除去する装置です。壁や地面に近づけると、範囲内に指定の細菌などを検出します」

 「指定の細菌というと、あらかじめ指定しておく必要があるんですか?」

 「ええ。ですが、既にこちらで設定済みです。守さんはこのまま使ってもらえば大丈夫です。使い方は、このボタンを押してスキャン。こちらのボタンで殺菌です。強力な光線で殺菌するので、人に向かって使わないで下さいね」

 もう使うばかりになっているのか。準備がいいなぁ。

 「それと、このウィルスについては空気感染をしないことがわかっています。ですので、罹患者の行動範囲内を殺菌して下さい。後、できればでいいのですが、既に感染した者が他にもいないかどうかを調べて下さい」

 「わかりました。ですが、他の感染者を探すというのは難しいですね。町に知り合いはそんなにいないですから。あの町の医者か薬屋を知っていれば、話を聞けるんですが」

 そもそも、シャールの町に病院や薬局があるのかどうかすら知らない。リベルさんが薬を買ったらしいので、薬を扱う店はあるみたいだけど。

 「まあ、できる範囲で聞き取りをするくらいだろうな。森に住んでいる我々では、町の情報を集めることは難しい」

 「それはわかってる。シャールの町へ行った時に、ついでに話を聞くだけでいいの。私もなるべく衛星からの監視を強化するから。こっちも大した効果はないだろうけど。でも、何もしないよりはした方がいいわ」

 女神であるアイリアさんは、直接関わることはできない。だから、やれることは限られている。

 「感染拡大を防ぐ方法はわかりました。ですが、治療法はないんでしょうか。俺としてはそっちの方が大事なんです。何しろ、知り合いが既に感染しているので」

 「ええ、一応方法はあります。特効薬を作って、服用すれば治ります。ですが、薬を作ることがかなり困難です」

 「薬を作るんですか。確かに、それは難しそうですね。技術も設備も必要でしょうし」

 それに、原材料も必要だろう。アイリアさんが用意してくれたりはしないんだろうか。

 「いえ、製薬自体は、この家にある道具でできます。使用方法はリリティアが知ってるはずですし、詳細な製薬方法はこちらのファイルにあります」

 アイリアさんはカバンからファイルを取り出すと、テーブルの上に置いた。ファイルの表紙には手書きで、感染症対策マニュアルと書かれている。何語なのか全くわからないが、意味だけははっきりとわかる。加護のお陰だが、何とも不思議な感覚だ。

 「製薬装置の使用方法なら研修で習っているし、何度か練習で薬を作ったことがある。実際に使用する薬を作ったことはないが」

 格闘術に製薬まで習うのか。精霊の新人研修がどんなものなのか、ちょっと気になってきた。

 「問題は原料を手に入れることです。簡単に手に入るものもありますが、入手が難しいとされているものが3つあります」

 アイリアさんは話を止め、テーブルの上に置かれたファイルを開いた。確かこの辺に、と一人言をつぶやきながら、ページを繰っている。

 「えっと、まず1つ目がアカサイシという植物です。真っ赤な花弁が綺麗な花です、この森の平地にも咲いているものです・・・って、そういえば・・・」

 「それなら以前に駆除したな。乾燥させて保管してあるから、そのまま使えるはずだ」

 「ああ、あれですか。町へ行く時に見つけて、全部抜きましたね。結構大変だったので覚えてますよ」

 「守さんの日報にも書いてありましたね。それでは、これは既にクリアですね。まあ、これは3つの中ならば最も見つけやすいだろうと思われているようです」

 アイリアさんはファイルを見ながら喋っている。話しぶりも、他人の話を代弁しているだけという感じだ。あのマニュアルは、アイリアさんが作ったものではないのだろうか。少なくとも薬の材料に関しては、資料を読んでいるだけのように感じる。

 「次に難しいとされているのは、ムクコマという植物です。真っ白な花弁が特徴ですが、こちらの花は見覚えがありますか?」

 開かれたファイルには、白い花の写真が印刷されている。真っ白な花びらがお辞儀をしている。それほど大きな花ではないようで、写真を見る限りは5センチくらいだろうか。

 「いえ、これは多分見たことがないと思います」

 「私もだ。この辺りにはこのような花はなかったと思う」

 「やはりそうですか。この花は高地の森林に存在する可能性が高い、とありますから。北の山脈の中腹か、あるいは南の山の頂上付近と書いてあります」

 「探すなら南の山だな。北の山脈はここからでは遠すぎる」

 南の山でも、それなりに距離があったはずだ。標高がどれくらいなのかはわからないけれど、山登りになるならばその準備も必要だ。

 「そして、最後の1つなんですが、これが最難関だろうと言われました。それこそ、あるかどうかすらわからないし、探す当てもないと」

 これだけは書いてあるではなく、言われたと言った。つまり、次の原料だけは、入手が難しいと直接言われたということだ。一体、どんなものなんだろう。

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