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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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十六日目・再会②

 そんなこんなで、蹴り技の練習をすることになった。最初はマナの力を一切使わず、基本の形を覚えることになった。

 リリティアさんの上段蹴り自体は見えなかったが、その前後の姿を思い出す。更に総合格闘技やムエタイで見た上段蹴りを、記憶の片隅から引っ張り出す。格闘技は趣味ではなかったが、全く見たことがないわけではないのだ。

 「えーっと、こんな感じで・・・えいっ!」

 思ったよりも足が上がらず、胸の高さくらいを通過した。顎を刈り取るイメージだったんだけどなぁ。

 リリティアさんが無言で、自身の後頭部の高さに手を置いた。苦笑いをしながら、もう一度チャレンジする。今度は、リリティアさんの顎くらいまで上がった。

 「さっきよりは良くなった。だが、この高さだと相手によっては肩に当たるぞ。もっと高くだ」

 そうか、リリティアさんは女性の中でも小柄な方だ。相手が高身長の男だったら、狙うべき場所はもっと上になるのか。

 リリティアさんの手をめがけて、もう一度上段蹴りを放つ。

 「さっきより低くなったぞ?」

 「あれ?おかしいな・・・」

 気を取り直してもう一度。今度はいいところまで足が上がった。

 こうしてうまくいったりいかなかったりを繰り返しながら、上段蹴りの練習をする。

 「蹴る時は直線的な軌道をイメージしろ」

 「直線的・・・こうかっ!」

 今のはスムーズに足が出た。回り込んで横から当てる感じだったのを、地面から一直線に目標を捉えるようにした。この方が腰の入った蹴りになるようだ。

 「よし、今のは良かったぞ。マナの力を利用するには、直線的な動きの方が力を出しやすいからな。この格闘術も、大半は直線的な動作の技で構成されている」

 なるほど。確かに、昨日の訓練でもフック系の技はやりにくかった。マナの力をどう使えばいいかわかりにくくて、難易度が高いように感じていた。

 「でも、直線的な動きばかりだと、単調になって防がれませんか?」

 「実際にはそうだな。だが、まだそこまで考える段階ではない」

 「そうですね。初めたばかりですし」

 初心者が気にすることではなかったか。とはいえ、初心者だから素人だからと、敵は加減してくれはしないだろうけど。

 「そうだな。それに、読まれていてもそれなりには効果がある。マナの力で威力とスピードを上げているからな。ガードの上から敵を蹴り飛ばしてしまえばいい」

 「確かに、それができれば躱されない限り問題はありませんね」

 荒業だけれど、倒せるならそれでもいいだろう。

 「そもそも、この総合格闘術自体が護身用として研修中に習うものだ。本来の業務に必要な知識や技術を覚えることが研修の主目的だから、護身術にそこまで長時間使えないんだ。だから、高い技術を必要とするようなことまでは教えられていない」

 「そうなんですか?」

 「中にはまともに学習しようとしない者もいるからな。身の安全を守るために必要だと思うんだが、何を考えているんだか。護身術を碌に身に着けない精霊が死んでも、安全管理の不徹底として上司となる神が咎められる。理不尽に感じるがな」

 途中から愚痴が混ざってないかな。確かに危険な場所に行って、何の備えもしないのはおかしいだろう。まあ、俺も人のことは言えないけれど。

 「今教えている総合格闘術は、言ったように基本的なことだけだ。だが一応、それでもある程度は役に立つはずだ。まずは我々が研修で習った範囲を、きちんとマスターしよう」

 「まずは、というとその先もあるんですか?」

 「それは・・・まだはっきりとは言えないな。剣術を習う機会があれば、支給された長剣を使う方がいいだろう。その機会がなければ、その時に考えよう。剣術の研修に参加させてもらうということも、検討はしている。許可が降りるかはわからないが」

 「色々考えていてくれてるんですね。ありがたいです」

 「異世界の森に放り込んだのだからな。そこの動物に食べられて死にました、では可哀想だろう。それなりには考えているさ。さあ、おしゃべりはここまでにして、練習を再開するぞ」

 その後も訓練を続けた。足技ばかりで、中段、ローキック、膝蹴りのやり方を学んだ。どれも利き足である右足だけでなく、左足でも出せるように訓練する。一度やり方を学んだ後は、数十回程同じ技を練習して別の技に移るというローテーションを繰り返した。

 3周目が終わり、4周目の上段蹴りを始めようとした時だった。

 「あら?格闘術の練習ですか?」

 不意に声が聞こえた。聞こえた方を向くと、女性が立っていた。金色の髪が、太陽の光を眩しく反射している。

 「あれ?アイリアさん?」

 「・・・来たのか」

 「お久しぶりです、守さん。こちらでの生活には慣れましたか?」

 俺をこの世界に連れてきた女神で、現直属の上司が立っていた。

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