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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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十五日目・稽古②

 昼休憩を終えすぐに練習開始、とはならなかった。怪我をしないように、柔軟運動やストレッチを行うことが最初だった。限界を一歩越えたところまで伸ばされるのが辛いが、補助をしてくれるリリティアさんと密着するのが柔軟運動のいいところだ。今回は俺も、柔軟運動の補助をした。マナの特訓の時にも感じたことだが、リリティアさんは体がとても柔らかい。補助をすると、それがよくわかった。例えば開脚して前屈をすると体が床に着くし、股関節を開いても両膝がペタンと床にくっつく。

 そしてわかったことがもう一つ。髪がサラサラでいい匂いがする。マナポイントで交換したトリートメントのお陰だろうか、以前よりも髪に艶がある気がする。目に見えて効果があるのならば、多少のマナポイントなんて安いものだ。

 「さて、これからやることだが、お前に格闘術を教えようと思う」

 「それはリリティアさんが仕事をする時に習ったというものですか?」

 「そうだ。精霊用の総合格闘術だが、人間であるお前にも問題なく使えるはずだ。剣があるのに格闘術なんてと思うかもしれないが、私が教えられる武術はこれしかないからな」

 「いえ、全然そんなこと思わないですよ。ぜひ、教えて下さい」

 心得のある人から教えてもらえる格闘術のほうが、素人剣法よりもよほど有用だろう。それに、長剣をいつも持ち歩いているわけではないし、戦いの最中に落としてしまうかもしれない。そもそも、鬱蒼とした森の中では、満足に剣を振るうことは難しいかもしれない。そう考えると、素手による戦い方を覚えたほうが役に立つのかもしれない。

 「それでは、始めようか。以前にも言った通り、打撃技に投げ技、絞め技など何でもありの総合格闘術だ。発展、応用として周囲の地形や物を利用することもある。だが、今回は打撃技の基本を中心に教えていこうと思う。というのも投げ技と絞め技は、動物に対しては使いにくいからな。打撃技の方が、動物相手にも応用しやすいだろう」

 確かに、骨格が違う動物に対して、絞め技は使いにくいだろう。投げ技は四足歩行の動物や、100キロ以上の動物を投げ飛ばせるイメージが湧かない。突きや蹴りのほうがまだ効果的だろう。

 「よし、まずは基本の構え方からだ。足は肩幅よりやや開いて、手は顔の高さ。そうだ、それくらいだ。構えている時は、こぶしを握りこまない。それで、腰を落とす。そして、ここから一直線に突き出す」

 こうして、打撃技の基礎練習が始まった。まずは突き技からだった。しかし、この突き技が、見たこともないものだった。空手の正拳突きではなく、ボクシングのストレートやジャブとも違う。格闘技に詳しくないのでわからないが、日本でポピュラーな格闘技とは少し異質な感じだ。

 「突く時は肩からこぶしへのマナの流れを意識しろ。それと腰は捻らず、肩から先だけ動かすんだ」

 「腰を入れないということは、手打ちで打つ感じですか?」

 「そうなるな。マナの力を利用することで、それでも十分な威力になる。そして、腰や下半身を使わないということは、どんな体勢からでも突くことができるということだ。敵の攻撃を躱しながら、あるいは逃げながら突くことで、生存率を高めることができる。この総合格闘術において、最初に覚える基本の技術だ」

 敵を倒すためというよりは、安全な場所まで撤退するために放つ攻撃という感じだろうか。護身用の格闘術ということを考えれば、それをマスターすることが最も大切なのだろう。猛獣から逃げるために訓練する俺にとって、適した考え方の格闘術だろう。そこまで考えて、リリティアさんも教えてくれるのだろうけど。

 その後、フックや掌底など様々な技を教わった。どれも片手だけを使って放つものばかりだった。明らかな手打ちで、普通なら当たってもダメージを与えられそうには思えないだろう。事実、最初はただ腕を動かしているだけでしかなかった。マナの力で加速させることで、ようやく実用的な技になる。

 それなりに様になったところで、左でも同じようにやってみる。左右どちらでも、同じように技が出せるようになるためだ。

 「もういい時間になってきたな。次のメニューを最後にして、今日は終わりにしようか」

 「そうですか?終わりというなら止めますが、まだ日は高いですよ?」

 前の特訓は日が暮れるまでやった。普段の仕事も、大体いつもは暗くなるまではやっている。対して今日は、日は傾いているがまだまだ明るい。日没までには結構な時間がある。

 「普通の作業ならばいいが、格闘術の練習だからな。それも、今日が初日だ。薄暗くなる前に止めた方が安全だろう。特に、これからするメニューはな」

 「つまり、これから危険な練習をするということですね?」

 「察しが良いな。危険というほどではないが、万が一の場合がある。今からやるのは組手だからな」

 「組手?リリティアさんとするってことですか?」

 「そうだ。勿論、安全に配慮して寸止めでな」

 「今日始めたばかりで、いきなり組手をするんですか?」

 俺のイメージだが、最初は基礎連の繰り返しだと思っていた。

 「基礎練習で培った技術を実践練習で試し、そこで気づいたことを基礎練習にフィードバックする。そうやって繰り返すことで、実際に使える技術を身につけるんだ。だから今日覚えたことを思い返しながら、組手に取り組むように」

 こうして始まった最後のメニューだったが、リリティアさんには全く歯が立たなかった。こちらの技は全て躱され、リリティアさんの攻撃は速すぎて反応できなかった。結局、数十回と寸止めを食らって終わりになった。初めのうちはこんなものだと慰められたが、それも虚しいだけだった。

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