表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
146/188

十四日目・病気と薬

 「リベルさんのお父さんの病気、良くなりますかね?」

 「あれらの薬で治ることはないだろう。あくまで、症状を緩和させるだけの効果しかないからな。栄養を摂って安静にして、後は自身の抵抗力に期待するしかないだろう」

 俺たちは朝早くにリベルさん宅を訪れ、神の門で交換した薬を渡した。初めて見る薬に父娘共々戸惑っていたが、なんとか飲んでくれた。昨日会ったばかりの人間から突然渡された薬を、信用して飲んでくれるかどうかは賭けだった。本人からすれば、他に飲める薬もなく、藁にもすがる思いだったのだろうと思う。毎食後1錠ずつ飲むようにと説明して、リベルさん宅を出た。

 「病気の原因自体を治す薬があるといいんですけどね。この世界の薬では効果が今ひとつだったみたいですし」

 「この世界の科学では、効果的な薬を開発することは難しいだろうな。もしあったとしても、一般市民が手に入れられるようなものではないだろう」

 「風邪なんでしょうかね。咳や高熱は、一般的な風邪の症状ですが」

 「単なる風邪にしては、症状が重度には感じたな。だが、素人の私では確実なことは言えない」

 さすがにあれだけ辛そうな状況を見てしまうと、なんとかしてあげたいと思ってしまう。それに、リベルさんが猫目石を開けられるようにならないと、俺にとっても都合が悪い。折り紙の代金も払ってもらわないといけないし。

 ジャムとコンポートを売り、屋台で少し食べ歩いた。ジュース屋のおばちゃんに確認したところ、やはりコンポートは人気だそうだ。もっと卸してくれたら嬉しいとまで言ってくれた。増産については検討するけど、安易には返事ができない。大量に生っているとはいえ、あまり乱獲してもいけない。人間以外も食べているだろうし。それに流通経路については、他にも考えているところがある。

 町での用事が済んだので、家へと帰った。帰宅早々、リリティアさんは通信室に入っていってしまった。

 急ぎの仕事も特にないので、リビングやキッチンを軽く掃除した。その後ソファで横になっていると、リリティアさんが降りてきた。

 「私は今から上へ行ってくる」

 「わかりました。昼食はどうしますか?」

 リリティアさんが言う上とは、この世界を管理するための施設だそうだ。この世界と神々の世界の両方にあるとのことだ。反対に下と言えば、人間が住む場所のことを指すらしい。

 「帰りがいつになるかわからないからな。私の昼食は考えなくていい」

 「向こうで食べてきますか?」

 「それは・・・さすがに悪いからな」

 「いえいえ、俺のことは気にしなくていいですよ。せっかく向こうに行くんですから、たまには向こうのご飯を食べてきた方がいいと思いますよ」

 リリティアさんは、俺に遠慮しているようだ。この世界と比べたら、神々の世界は食べ物の質が相当高いんだろう。自分だけそれを食べることに、引け目を感じているということだろう。

 「それでできれば、そちらの料理を今度再現してもらえたら嬉しいですね」

 「そうか。ではお言葉に甘えて、向こうで食べてくることにしよう。こちらの食材で作れそうな料理をはいくつかある。材料が手に入ったら作ってやろう」

 神々の世界の食べ物に関しては、確かに興味がある。物凄く美味しいんだろうな、とか想像もつかないメニューや味なんだろうなとか。いつか食べたいなとは思っていた。その願いを叶えつつ、リリティアさんの手料理を味わえるんだから一挙両得だ。

 「ありがとうございます。楽しみにしてますよ。俺は向こうには行けないみたいなんで」

 「ああ、外部協力者が世界間転送をするには、許可が必要だからな。特段の用事がない限り、上へ行くことは不可能だ。いずれ行く機会はあるかもしれないが、しばらくは無理だろうな」

 この森に転送された時に使った装置は、俺には使用する権限がない。リリティアさんには自由に使用する権限があるので、これを使って向こうへ行ける。精霊と外部協力者という地位の違いを、初めて目の当たりにした感じだ。

 リリティアさんが家を出ていくのを見送った。何も持たず、手ぶらだった。服装も町へ行った時と同じ、黒い服装のままだ。事務所のようなところに行くのに、普段着のような格好でいいのだろうか。そういえばアイリアさんの服装も、女神らしい装いとは感じたが、制服やスーツのようなものとは思えない。神様たちの勤務中の服装は、割と自由なのかもしれない。

 その後、昼食までは剣の素振りをして、午後からは山菜取りに出かけた。何度かリリティアさんと一緒に山菜取りをしているから大丈夫だろうと思ったのだが、あまり多くは見つけられなかった。山菜取りにもコツがあるんだろうか。沢山採れれば、それだけ食材の量と種類が豊富になる。早く一人でも十分な量を採ることができるようになりたいものだ。

 そういえば、リベルさんのお父さんはご飯を食べられているのだろうか。コンポートは食べられたようだけど、食欲がないのであれば他にも何か持っていった方がいいかもしれない。リリティアさんが帰ってきたら、相談してみよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ