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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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十三日目・リベルさんを探せ⑨

リベルさんの家は、狭い1Kだった。キッチンは4畳ほどで、その奥に6畳ほどの部屋がある。一人暮らしならば十分な広さだろうけれど、父娘二人で暮らすには少々手狭な印象は拭えない。二人が寝られるスペースを確保するためなのか、部屋にはあまりものが置かれていないため殺風景に見える。風呂とトイレはない。トイレは公衆便所が近くにあるが、風呂はないので水浴びをするしかないらしい。

 奥の部屋に男が寝ている。おそらく、リベルさんのお父さんだろう。雰囲気は40代くらいだが、顔や喉元にシワがあまりない。病で血色が悪くなっているだけで、実際はもう少し若いのかもしれない。家に入った時から、何度も咳をしている。

 「お父さん、大丈夫?調子はどう?」

 リベルさんが声をかけた。

 「ゴホッゴホッ・・・リベル、おかえり・・・ゴホゴホゴホッ・・・そちらの方々は?」

 咳と咳の間に、かすれた声で話している。咳のせいで喉が荒れているのだろう。声を出すのが辛そうだ。

 「えっと・・・この人たちは・・・その・・・」

 リベルさんが返答に困っている。確かに、説明が難しそうだ。おそらく、売上を薬代に使ったという話は、お父さんには言っていないのだろう。医療関係者でもない俺たちが見ず知らずの病人に会いに来るなんて、普通は考えられない話だろう。

 「はじめまして。俺たちはリベルさんの友人で、俺は守。こちらはリリティアと申します。お父さんが病気でものがあまり食べられていないと聞いたので、食べやすそうなものを持ってきました」

 そう言って俺は、コンポートを差し出した。町に来たついでに売ろうと思っていたのだが、リベルさんを偶然発見したため、売るタイミングを逃したのだ。リベルさんのお父さんへの見舞いの品になったので、結果オーライではある。

 「それはホージュのコンポートですか?最近市場で売られるようになったものですよね?」

 「知ってるんですか?」

 コンポートに対して、リベルさんが反応した。

 「密かに人気があるがあるんですけど、数量が少なくてすぐに売り切れてしまうんですよね。それを、よく買えましたね」

 「え?そんなに人気なんですか?じゃあもう少し量があっても売れますかね」

 「今の売れ方からすると、量が倍になっても売れると思いますが・・・それがどうかしました?

 自分が作ったものが評価されているのは、とても嬉しい。売れるなら、もっと作ってもいいな。

 リベルさんがお父さんにコンポートを食べさせている。お父さんもそれを美味しそうに食べている。喉が荒れている時は、こういったものの方が食べやすいだろう。

 「じゃあ、まだまだあるんでリベルさんも食べて下さい。いくつか後で食べるように置いていきますから」

 「ありがとうございます。お父さん、病気のせいであまりご飯が食べられなくて。でも、いいんですか?こんなにもらってしまって。本来こんなことをしていただくような・・・」

 「友達ですから。これくらいはね?」

 あくまで、ここに来たのは友人だからだ。少なくとも、リベルさんのお父さんにはそう信じてもらわないといけない。何度も咳き込んでいるのを見ていると、部外者の俺ですら余計な心労をかけさせるのは可哀想だと感じる。娘の友達でなければこの二人は一体何者なのか。そんな不安を与えたくはない。

 「ゴホッゴホッ・・・貴重なものを、ゴホッ、ありがとうございました。ゴホゴホッ・・・ん、ンー!」

 「おや、痰が出ているようだな。気持ち悪いだろうから、ここに吐き出すと良い」

 リリティアさんが鼻紙を差し出した。今まで一言も喋っていなかったので、突然のことに少し驚いた。

 リベルさんのお父さんは鼻紙を受け取ると、痰を吐き出していた。リリティアさんは、捨てておくと言ってその鼻紙を受け取った。

 「あまり長居しても迷惑だな。よし、そろそろお暇しようか」

 リリティアさんがそう言い出したので、帰る準備をする。

 「おっと、無理して起きなくていい。そのまま安静にしていて欲しい」

 起き上がろうとするお父さんを、リリティアさんが制していた。

 「では、失礼します。お大事にして下さい」

 お父さんはこちらを向いて、首を傾けようとしていた。病人なんだから、無理してお辞儀なんてしなくてもいいのに。リベルさんの見送りも辞退して、家を出た。

 「リベルさんのお父さん、かなり悪そうでしたね。ずっと咳き込んでいましたし」

 「そうだな。軽く体に触れたが、熱も相当高かった」

 鼻紙の受け渡しの際に、体温も確認していたようだ。

 「じゃあ、お父さんに渡す薬は咳止め、解熱剤、後は痰を減らす薬くらいですかね」

 「ああ、それでいいと思うぞ。それで今からだが、砂糖を買いに行く予定だったな」

 「そうですね。コンポートとかを売るのは時間的に難しいでしょうから、後は砂糖や食材を買うくらいですかね」

 「お前だけで買ってきてもらえるか?私は急用ができた。先に戻っている」

 「わかりました。先に家に帰るんですね。では俺は買い物してから家に戻ります」

 こうしてリリティアさんとも別れ、一人で砂糖や干し肉、野菜を買って家に戻った。その後、日没までは間伐作業、夜はコンポート作りをして一日を終えた。

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