十三日目・リベルさんを探せ⑦
「一応、これだけは聞いておこう。お前はどうして、横領なんてしたんだ?」
「いや、だから横領なんてされていないんですよ」
「店内を見る限りでは、経営状況はそれほど厳しいようにも見えないが」
訂正を試みたが、無視されてしまった。だが、お金を使ってしまった理由については、俺も聞きたかったことだ。俺の立場からは聞きにくいので、リリティアさんが聞いてくれるのはありがたい。
「理由に正当性があれば許されるなんて、そんなことはない。しかし、何故やったのかを聞く権利は、こちらにもあるだろう」
リベルさんは悪いことをしていないという立場である以上、俺は口を挟まない。
「お父さんが病気で倒れたから、お薬が必要だったの。でも、手持ちのお金じゃ全然足りなくて・・・あなた達のお金を・・・」
「治療費に使った、ということか。確かに薬は高価だからな」
「その薬は、一体いくらだったんですか?」
「えっと、金貨1枚と銀貨5枚です」
金貨1枚で銀貨90枚だったか。銀貨1枚が確か、銅貨100枚分だったな。だから、薬代は銅貨換算で9500枚か。銅貨10枚で一日分の食費だから、950日分になる。ほぼ3年分の食費に相当すると考えると、かなり高価な薬だと言えるだろう。
・・・でも、折り紙より安いんだよな。10種類以上作ったとはいえ、大した手間も費用もかかっていない。この世界の物の価値に、若干の疑問を覚える。
「なかなか高額ですね。その薬で、お父さんは良くなったんですか?」
病状はわからないが、それだけのお金を使っても治そうとしたのだ。おそらくは、相当悪かったんだろう。それこそ、命に関わるような状態だったのかもしれない。
俺の質問に、リベルさんは黙って首を横に振った。
「確かに、最初は少し緩和したの。でも、薬を飲みきってしまってから、症状が元に戻って・・・今も寝たきりの状態が続いているの」
「じゃあ、最近お店の方が閉まっていたのは、お父さんの看病で開けられなかったからですか?」
「それは、我々に会わないために決まっているだろう。お金が返せないんだから、店を開けるわけにはいかないからな」
うーん、リリティアさんは完全に怒ったままだな。話の邪魔だから、感情的に喋らないでほしい。
「お父さんの看病で店を・・・いえ、リリティアちゃんの言う通りですね。あなた達に会うのが怖くて、お父さんを言い訳に店を閉めてた。その通りです」
「店を閉めて看病していた。そういうことですね。今まで何度か店を訪ねたんですが、開いてなかったんで気になっていたんですよ」
「それは・・・すみませんでした」
近所で聞き込みをしていたので、リベルさんのお父さんが病気であることは知っていた。だが、聞いて回ったことを知れば気分悪いだろうから、ここは知らないふりをしておく。
「ところで、お父さんの病気が良くならなかったということですが、治る見込みはあるんですか?不躾なことを聞いてしまって申し訳ないんですが、確認しておきたくて」
今後も看病を続けなければならないのであれば、猫目石の経営がままならなくなるだろう。重病人を抱えながら、金銭的に困窮するのはとても辛いはずだ。病気を治すことは無理でも、俺にも何か力になれることがあるかもしれない。
「お医者様からは、もう一度同じ薬を飲むように勧められました。でも、そんなお金はありませんし・・・」
ここに金貨1枚ならある。銀貨5枚は、もう少し商売に力を入れれば、決して用意できない金額ではなさそうだ。だが、症状が緩和しただけの薬をもう一度飲んだくらいで、確実に治るという保証はあるのだろうか。この世界の医学がどの程度発達しているのかはわからないが、日本ほど高度ではなさそうだ。そもそも、その薬が本当に有効なのだろうか。
「そういえば、お父さんの症状は、一体どんな症状なんですか?」
「咳が酷くて、一日中咳き込んでる状態です。それと、熱が高いのと、胸の痛みがあるようです」
聞いたからと言って、何かわかるわけではない。でも、力になる方法は思いついた。
症状をちゃんと確認しておきたいですね。リリティアさんだけに聞こえるように言った。
「今から本人に会わせてもらってもいいか?少々確認したいことがある」
「・・・そうだよね。わたしの話が本当か、確認したいもんね」
俺の意図を察して、リリティアさんが聞いてくれた。悪役にする形になってしまい、申し訳ないとは思っている。
「・・・そう捉えてもらっても構わない」
リリティアさんは、投げやりにそう言った。




